働く女性と乳がん
-がん治療と乳房再建のいま-

No.7 自分の胸を残せる「乳房温存術」
乳房再建時の問題点とは?

辻 直子 セルポートクリニック横浜院長、杏林大学形成外科非常勤講師
(2017年06月)
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 乳房温存術の歴史と現状

 1980年代前半まで乳がんの手術といえば選択の余地なく乳房を全切除していたのが、条件が整っていれば腫瘍を中心として乳房の部分切除でも良いとされたものが「乳房温存術」です。つまり、自分の胸を残せる手術方法です。

 乳房温存術は、早期乳がんにおいて、【乳房切除群】と【乳房温存手術+放射線照射群】を比較したところ、生存率・死亡率ともに有意差がなかったというエビデンスが示されたので、徐々に普及がすすみ、今では全国的に早期乳がんの標準術式としての地位を獲得しています。

 検診などにより乳がんの早期発見が進んだこともあり、乳房温存術は乳がんの手術の半数を超えるまでになりました。

 年次乳癌登録集計/全国乳がん患者登録調査報告によると2014年次の乳がん手術の術式の内訳は乳房温存術51.6%、乳房切除術47.7%となっています。その後も増加傾向にあり、7割を超える温存率となる施設もあるようです。

 増える一方だった乳房の温存率でしたが、近年は、術後の整容性(いわゆる手術後の"見た目"のことを"整容性"と呼んでいます)が保たれないと判断される場合には、「乳房切除+乳房再建術」が選択されることが増えたため、施設によっては乳房温存率が下がっているところもあります。

 乳房温存術が適応できるのはどんな場合?

一般的には、乳房温存術に適用する条件は下記のようなものがあります。

・ 腫瘍径3cm以下
・ 多発病巣のないもの
・ 放射線照射が可能なもの
・ 広範な乳管内進展を示す所見が無いこと
・ 患者の希望があること

 ただし、これらはおよその目安であり、医師や施設によって多少のばらつきがあり、また術後の治療や整容性、再建の可能性も含めた患者さんの希望なども考慮して術式は決定されます。

 また、乳房温存術ができないとされた症例でも、術前化学療法により腫瘍が縮小して温存が可能になることもあります。逆に、乳房温存が可能でも術後の整容性が保たれないと判断された場合、乳房切除術や乳房再建術を考慮すべきとされています。

 乳房温存術では、腫瘍縁から一定の距離をおいて(通常1~2cm)乳腺組織を切開し、ひとかたまりに切除します。切除範囲によって乳房円状部分切除(Bp)、乳房扇状部分切除(Bq)、腫瘍的手術(Tm)などと分類されますが、それぞれの明確な定義はありません。

 乳房温存術後には原則として放射線治療を行うことが乳房温存療法ガイドラインにより推奨されています。これは、残存乳腺において乳がんの再発を予防するために行われています。

 自分の胸を残すことができる乳房温存術ですが、乳房再建を考えた時に問題点がいくつか浮上します。

 乳房温存術後の再建の問題点

  

 乳房温存術は乳房を部分的に残し整容性を保つ目的で行われるものですから、基本的には温存術後には乳房再建は必要がないというのが理想です。

しかし、現実としてはやはり多少は乳腺を切除しますので、局所的な陥凹やひきつれ、乳房の形や大きさの左右差が生じることも少なくありません。実際に凹みが気になり再建手術を受けたいという患者さんも多くいらっしゃいます。

 乳房温存術を選んだ場合、下記のような流れで再建は行われています。
※乳がん手術と同時に乳房再建を開始するものが「一期再建」、乳がん治療の終了後、あらためて乳房を再建するものが「二期再建」と呼ばれます。

 このように、患者の希望があれば乳房温存術後も乳房再建を行うのですが、特に2つの点が乳房再建を難しくしています。

 放射線照射の影響

   乳房温存術はガイドラインで定められるとおり、原則として放射線治療とセットで行われます。残存乳腺への再発を予防するのが目的ですが、放射線照射により正常組織にもある程度のダメージが生じます。

 照射直後の浮腫や発赤が落ち着いても、皮膚、皮下組織(脂肪や筋肉、血管を含む)は線維化して拘縮・萎縮し、その影響は放射線照射後10年以上経過しても残ります。

 そのため、放射線を照射後の乳房を再建する際には創治癒の遅延や皮膚伸展の不良、血行不良による感染や炎症など、合併症の頻度が上がってしまうのです。再建後の乳房の変形や拘縮なども生じることがあります。

 瘢痕(はんこん)と癒着の存在

 瘢痕とは、"傷痕(きずあと)"のことです。乳房温存術を行った後は、切除した乳腺組織の欠損ができますが、その後の生物の自己治癒能力(専門用語では「創傷治癒機転」と呼びます)により瘢痕組織で埋まり周囲組織とくっついて治ります。

 イラストのように、瘢痕組織(線維組織)が欠損を埋めます。周囲との癒着は皮膚から皮下組織、大胸筋まで続いていて時間が経っても跡が残ってしまいます。これが収縮すればひきつれが生じますし、再建する場合にも良い形を作る際に邪魔をしてきます。この瘢痕組織と癒着の程度によって再建の難しさが違ってくるのです。

 以上の問題点から、手術の経過や整容的結果にも悪影響があることがあるため、日本乳癌学会のガイドラインにおいて放射線照射例に再建はすすめられないとされています。

 もちろん、状態と患者の希望によっては乳房再建を行うことも可能です。その場合が、以上のようなリスクがあることは充分に説明したうえで慎重に治療を進める必要があります。

 当院で月に1回行っている乳房再建説明会で「放射線治療後、いつから再建できますか?」と質問を受けることが多いです。

 乳房再建を決めた場合、実際に診療を受けてから具体的な時期について決定しますが、基本は、放射線による皮膚のダメージが落ち着いてからになりますので、放射線治療後から1年間ほど経過してからの再建手術とご案内しています。

 その他、再建についてよくある質問をセルポートクリニック横浜ホームページ内乳房再建術に関するご質問 にまとめましたので、ご参考にしてください。

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