がん治療と仕事の「両立支援」を考える~産業保健師の乳がん経験~

No.15 乳がん治療を振り返って思うこと~寄り添い背中を押すことができる医療職~

横山 淳子 パナソニック健康保険組合 保健師
(2021年12月)
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病気について話す

 最近では、がん治療に向かう方に経験者であることを伝えられるようになりました。きっかけは相談者から「同じ病気を抱える仲間として、また医療職の目線でもっと体験を話してほしい。」と言われたことでした。

 当初は、抵抗がありましたが、事前に治療のことを想定できると準備ができる、必要以上の不安な気持ちに駆られるよりも早く前に踏み出そうという気持ちになれる、またそうなってほしいという思いから話すようになりました。

 私自身がそうであったように、前を走る体験者の存在はとても勇気づけられます。少なくとも告知を受けた方にとっては、病気を受け入れ乗り越えていくことは一大事です。

 ただ治療はつらくとも私にとって大切なものを考える好機に恵まれたことは、非常に良かったと思っていますのでそういったことも伝えられればと思っています。

両立支援がうまくいったポイント

 私は、運よく恵まれた環境で治療をしながら働くことができましたが、両立がうまくいったポイントを振り返ってみたいと思います。

 まず、がん発見時ですが、保健師として「仕事をやめる必要がない」と認識していました。私自身が一般の人よりも知識を持っており、さらに職場も知識があったので、元から心構えが出来ていたことが大きなポイントになったと思います。

 職場では、上司が産業医でしたので副作用対策のためにアピアランスセンターを勧めてもらったり、病気のこともですが、周囲への告知の仕方をうまく誘導してもらえました。また長くいる職場でしたので人間関係もできており、告知や相談しやすい環境だったと思います。

 病院では、初診時に主治医から「仕事をやめないように。」と言われ、治療に必要な受診はなるべく休まないで済むような時間帯にしてもらいました。病院側が両立支援を当たり前のこととして理解し推進しているおかげで「治療はするけれど、今までと変わりない生活を送ること」が自然と当たり前のこととして思うことができました。

 次に治療中です。職場では、上司が病院受診の度に声をかけてくれ、私は、検査結果の報告や、業務継続の確認、相談をしました。気持ちの整理につながり、自然な形で周囲に状況を伝えるきっかけにもなりました。

 治療日の年休、副作用による体調不良時に時間休を取得する、職場の温かい声かけなど家族を含め周囲から様々なサポートやアドバイスを受けました。

職場における支援内容を考える

 改めて職場の支援内容を考えると、がん発見前は、早期発見のための検診の勧めが大事です。

 がん発見時から治療方針決定までは、精神的に追い詰められた状況で重要な判断をしなくてはいけない時期ですので、状況・思考の整理を一緒にする、治療に向けての道筋・計画を立てる、告知の仕方や治療中の支援者を探すなどの相談を産業保健スタッフにしたり、産業保健スタッフがいない場合は周囲の誰かができると良いと思いました。私個人の感覚としてはこの段階のサポートが今後の治療を乗り越えるうえで一番大きく影響すると思いました。

 治療中においては、仕事をするために上司との体調確認や本人、周囲とが積極的に声を掛け合うことがポイントだと思いました。「いつでも相談してください。」という言葉は使いがちですが、その言葉では、行動は起こしにくいものです。

 治療をしていることは確かに特別なことではありますが職場においては同じ立場の仲間です。特別なことをする必要はなく、「次の受診はいつ?」「体調はどう?」「ごはんは食べているの?」など、ほんの少しで良いのでちょっと踏み込んだ具体的な一言がお互いを知るきっかけとなりサポートにつながると思いました。

 組織としての支援体制は、がんに限らず、定期的なメルマガの配信、掲示などを通し、いざという時に本人、上司が駆け込む場所を知っておくことが大切で、自分が病気になったら、周囲が病気になったらという意識で日頃からの備えができるような教育を推進していくことが大切だと思いました

両立支援をめぐる環境

 高齢化により病気を抱える労働者が増え、労働者不足から疾病、障害を持つ労働者の活用がますます必要になってきています。とはいえ本人側が告知しづらかったり、職場が対応に苦慮しているなどの現状もあります。

 両立支援は本人の申し出があって成り立つので、お互い誰にでも起こりうるかもしれないという気持ちで申し出しやすい環境づくりを心掛けていくことが大切だと思いました。

 私の場合、普段、どんなに気軽に話せていても急には家族にも友人にもがんである自分をなかなか開示できませんでした。今までと違う立場や環境にとまどい何をどうしていいのかわからないといった感じだったと思います。

 しかし、手探りの中でも、医療職や専門職に対しては安心して話をしてもいいんだという気持ちになりアドバイスも聞くことができました。それだけに両立支援コーディネーター、産業保健スタッフ等への期待は大きく、多くの方々にその存在を知っていただくことも重要だと思いました。

 また、治療が終わり、以前の日常に戻っていくうえで様々な方にもお世話になりました。生活をするうえで助かったことはかつらを取る際に美容師さんにサポートしてもらえたこと、長く五十肩にも悩まされ、体のメンテナンスではカイロプラクティックの先生にもお世話になりました。

最後に

 最後になりますが 今回、自分にとっての「大切なもの、こと」について考えることが出来たこと、そして周囲の方々に支えていただいていることに気づけたことは私にとってかけがえのない経験になりました。

 またこの執筆を通し、貴重な体験を改めて受け止め振り返ることができました。つたない文章ですがお読みいただきありがとうございました。

 このような機会を与えていただきましたことに感謝するとともに私自身の両立支援を導いていただいた主治医、上司、職場の皆さま、家族、友人等にこの場をお借りし御礼申し上げたいと思います。

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