がん治療と仕事の「両立支援」を考える~産業保健師の乳がん経験~

No.14 治療を乗り越えるために( 2 )

横山 淳子 パナソニック健康保険組合 保健師
(2021年07月)
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抗がん剤はきつい薬剤

 前半の点滴治療では、点滴が赤色で赤色尿が出る間はトイレの水を2回流すように言われました。抗がん剤は治療を受ける側にとってがん細胞の増殖を抑え死滅させる非常にきつい薬ですが、同様に周囲にとってもきつい薬となり薬剤がつかないように周囲への配慮が必要だと知りました。

点滴治療に向かう

 訪問ボランティアの方からのアドバイスで病院に行くときは、ゆとりをもって電車の空いている時間帯を狙って予約を入れました。普段の通勤のことを思えば何のことはないと思っていたのですが、想像とは違い、自分の体が思い通りにならない時もあったので時間に余裕を持っておいて良かったと思いました。

 後日談ですが、当時のことを、子供から「フラフラしている姿を見ると本当に一人で病院に行って大丈夫なのかなとずっと心配していたよ。」と聞かされました。家族には、いつも通りの生活を送ってもらいたいと思って頑張っていましたが、しんどい時は家族に相談することや自然体でいることも大事だったのかなと思いました。

治療中の楽しみを見つける

 抗がん剤の治療ができるかどうか、当日の採血結果で判断するのですが、結果が出るまでがお楽しみの時間。私は病院にあるカフェでカフェインレスのカフェラテとオレンジケーキを食べ小説を読み過ごしました。味覚障害がなければもっと満喫できたのですが、ささやかな至福の時でした。

 また担当の先生や看護師さんに会うのがとても楽しみでした。誠実に接してくださるのは、もちろん魅力の一つでしたが「がんの経験をした医療スタッフがご相談にのります。」といった張り紙がしてあり、この中に同じ経験をされているスタッフがいる、元気にいきいきと仕事をされていると思うだけで励まされました。

仕事に出るタイミング、励ましのタイミング

 抗がん剤治療に入る前に、上司(産業医)が「仕事と治療の両立を目標に頑張ってみませんか。」と提案してくれました。そこで私は「休職せず年休、半休、時間休を使いながら抗がん剤治療と仕事を両立する。」と決めました。目標が決まると不思議とくよくよ悩む暇もなく、とにかく前に進もうという気持ちがわいてきました。

 前半の抗がん剤治療(3週間毎の点滴)では、3週目の4日間を仕事に出るようにしました。点滴後の副作用がきつく10日程横になることが続きましたがこのつらい10日間にメールをもらったりすると萎えた気持ちがシャキンとしました。少し良くなってきたら無理をしてでも食べて体重を戻し、体を動かしました。

 今でこそスタスタ歩いていますが、一生懸命歩いても息が上がり前に進まず自宅から駅までをごぼう抜きにあいながら歩いたものです。満員電車では、座れなくてもぎゅうぎゅう詰めが功を奏し、電車に乗り込む時と降りる時の足元に気を付けさえすれば人に押されて駅に到着することができました。

 帰りは次の日のことを考え夕方1時間、時間休を取り電車で座って帰るようにしました。また自律神経が乱れやすいのか眠りが浅く、カフェインを取ると眠れなくなるため、麦茶や白湯を飲むようにしました。

 後半は、週1回の点滴治療、週4日のフル勤務をしました。動作は鈍く、力仕事はできませんが、比較的元気で出社すれば通常の8割くらいはできていたように思います。とはいえ職場には、特に前半3か月は出社日も少なくとても迷惑をかけてしまったと思います。それでも受け入れ、ましてや出社の度に喜んでくれ気遣ってくれた職場には感謝しかありません。

 振り返ると、治療中は治療日のために年休や半休もありがたかったですが、通勤ラッシュを回避するために時間休が使えたことはとてもありがたいと思いました。自宅や病院が職場に近ければもっと働き方に幅を持たせることができたかもしれません。

ニューノーマルな時代を迎えて

 現在は、コロナ禍でのがん治療の遅れや検診を後回しにしてしまうケースが多く、感染リスクの上昇や基礎疾患を持つ場合の重症化の恐れなど不安や緊張を強いられる状況です。しかしながら新型コロナ感染症対策でマスクをつける、在宅勤務やソーシャルディスタンスなど新しい常識が生まれました。

 私が治療を受けていた頃は、マスクをつけることは相手の方に失礼に当たるからと治療中であることを知らない方からは「マスクを取るように。」と言われることもありました。また人混みであっても夏場にマスクを着けることは、かなり目立つことでしたので、免疫が下がって感染リスクが高まっていてもマスクを着けるのは少し勇気のいることでした。

 今ではマスク着用がマナーであり、人混みを避けるための時差勤務や在宅勤務をすることが推奨されるようになりました。体調を整える面ではかなりの追い風になり、これらの新しい生活様式は新型コロナ感染症が終息した暁にはメリットとして残るのではと期待しています。

 一方で職場での相談窓口を見つける、仕事を続ける上での関係者にカミングアウトすることや体調確認と仕事の負荷を随時検討するなどは、以前なら、ちょっと聞いてみよう、相談してみようと簡単に思えたかもしれませんが、在宅勤務にシフトし始めた現在では自ら積極的に行動を起こす必要があり敷居の高いものになったと思います。

 インターネットで情報が得られるとはいえ、外に出る機会が減り人と顔を合わせる機会が少なくなると一人であれこれ悩んでしまい場合によっては偏った情報に惑わされるといったリスクも否めません。

 ただ正しい情報を集め治療と仕事の両立の計画を立て体調をうまくコントロールできるのであれば在宅勤務や裁量労働を活用し治療中であってもうまく仕事を続けることができるようになるかもしれません。

 これからの新しい選択肢のある働き方の中で、がんをはじめとする病気や出産、育児、介護など生涯の上で乗り越えなければならない様々な出来事も、より自然な形で生活に溶け込み、サポートが必要な場合は、皆で支えあうのが当たり前の習慣になっていくことを期待したいと思います。

今回のチェックポイント!


■抗がん剤は本人にとっても周囲にとってもきつい薬
■治療中は余裕を持って行動
■点滴治療の日の楽しみ方
■治療を乗り越えた人の姿に励まされる
■目標があると前に進もうという気持ちがわく
■治療をしながらの就労
■眠りが浅いためカフェインを抜いた
■通勤ラッシュの回避に時間休がありがたかった

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