がん治療と仕事の「両立支援」を考える~産業保健師の乳がん経験~

No.14 治療を乗り越えるために( 1 )

横山 淳子 パナソニック健康保険組合 保健師
(2021年07月)
  • twitterでつぶやく
  • 乳がん治療の情報ファイル
 がん告知を受けてから不安と恐怖でいっぱいでしたが、手術日や治療内容が決まると自ずとやるべきことが見えて、精神的に落ち着きを取り戻し「治療を乗り越える」ことを考えるようになりました。

 私の場合は、がんの疑いから化学療法終了までの10か月と同時に行っていた乳房再建を合わせて約1年半が治療期間でした。特に化学療法をしながらの仕事との両立が一番しんどく、副作用と付き合うのに工夫がいりました。

 東京都福祉保健局から出されている「働きやすい職場づくりを応援します がんに罹患した従業員の治療と仕事の両立支援ハンドブック」の乳がん患者の治療と仕事の流れによると、私の場合は赤枠に該当しAさんの働き方をしました。

副作用と付き合う

 抗がん剤の点滴治療日は、病院までの往復2時間をとにかく無事に一人で行って帰ってくることを目標にしました。抗がん剤の副作用は少なくなったとは言われますが大なり小なり大体の副作用を経験したように思います。前半のAC療法は、点滴後しばらく起きるのがつらく10日ほど横になることが多かったです。

 他には、吐き気、身の置き場の無いようなだるさ、においに敏感になる、脱毛、味覚異常(何を食べても飲んでもまずい)、喉のつかえで飲み込みがうまくできない、眠れない、乾燥肌、便の出しにくさなどがありました。特に「におい」については、普段、全く気にならなかった整髪料のにおいがきつく感じられ吐き気につながりました。

 味覚異常では甘みをまずく感じ、大好きなおやつが苦手になったりと、自然にしていると何を食べてもおいしくないので記憶に残るおいしさを思い出しながら食べるようにしました。

 他に心掛けたことは生活のリズムを変えないことでした。働いていた時と同じ時間に起き、食事の準備、弁当作り、洗濯、掃除などを行い、終わったらすぐ横になりました。

 少しでも元気が出たら、合間を縫ってラジオ体操などの運動。副作用が落ち着いたら1日1万歩。用事を見つけて外出。朝から散歩がてら友人宅に行くなど体を動かし職場に行く練習をしました。

 後半の副作用は、前半よりは楽でしたが、普段アルコールを飲まない私は、抗がん剤に含まれるアルコール成分のせいで点滴中から気分が悪くなり、帰りは悪酔いしたような脱力感で家路につくのがやっとでした。

 治療が終盤に向かうと、手足のしびれで力が入らず、包丁を落としたり、ペットボトルや瓶ふたが開けられなくなったりと動作が鈍くなってきました。薬が体にたまってくることで白血球の低下が著しくなり何度か治療が受けられないこともありました。

専門職からのアドバイスの大切さ

 毎回、治療を受ける度に産業医(上司)に血液データを見せ体調の報告をし、仕事に就くようにしました。特に最終の1か月は白血球低下、貧血によるひどいだるさで、2回ほど点滴治療を見送り、感染のリスク、体調含め通常勤務に耐えられないことから就業制限がかかりました。

 働くことが励みになっていただけに、産業医(上司)から血液データを改善すること、主治医から出社許可をもらってくるように言われた時は、本当に残念でなりませんでした。

 今まで、仕事をすることは生計を立てるのに当たり前のことだと思っていましたが、思うようにならなくなると、仕事ができることをありがたく、キラキラした眩しいもの、かけがえのないもののように思いました。

 治療中という非日常では、物の見方やとらえ方がいつもより敏感になり、この時の私は会社に行きたいという前のめりの気持ちで、しかし身体はついていかないアンバランスな状態だったと思います。周りも私の気持ちに押されて何も言えなかったかもしれません。だからこそ医療職の産業医から止められると素直に従うことができました。

 産業医あるいは看護職がデータや体調を見て仕事ができる状態かどうかを判断し、本人と職場に現実を伝え職場への適応をアドバイスしていくことはとても重要な役割だと思いました。この本人と周囲とのバランスが取れてこそ両立支援が成り立ち、バランスをとるために産業医、あるいは看護職のアドバイス、存在は欠かせないと思いました。

 「がん患者の就労などに関する実態調査」のがん患者の就労意向によると80.5%が仕事を続けたいと答え、そのうち6割が「いきがいである。」と答えています。私のように治療をきっかけに、自分にとっての仕事の位置づけを考えるようになり、いきがいだと思えた方もいらっしゃるのではないでしょうか。QOLを目指し就労の場を得られる環境づくりはますます期待されると思いました。

 しかしながら私のように細やかな就労の可否を確認しながら両立支援を行うには、まだまだマンパワーが足りず今後の課題となると思いました。 

今回のチェックポイント!


■治療内容が決まると、精神的に少し安定。「治療を乗り越える」ことを考える
■化学療法をしながらの仕事との両立が一番しんどい
■副作用と付き合うための工夫
 ・おいしさの記憶を思い出しての食事
 ・生活リズムを極力崩さない
 ・体が少し楽になったらラジオ体操やウォーキング
■治療の終盤は免疫力低下
■仕事ができることのありがたさ
■治療中はいつもよりものの見方や感じ方が敏感
■本人と周囲とのバランスを取ってくれる産業保健スタッフ
■治療をきっかけに自分にとっての仕事の位置づけを知る
■就労の可否を確認しながらの細やかな両立支援はマンパワーが必要
ニュース・トピックス
イベント・セミナー情報
10月06日(木) 東京
患者さん・一般の方向け
国立国際医療研究センター病院 がん患者さん・ご家族のための"お金と仕事"の相談会
10月08日(土) 群馬県
患者さん・一般の方向け
乳房再建ネットワーク「シャロン前橋」街角サロン
10月20日(木) オンライン
患者さん・一般の方向け
千葉大学病院「がんおしゃべりサロン」第106回 on the web
10月22日(土) オンライン
患者さん・一般の方向け
PiF in Zoomおしゃべり会「乳がんって言われちゃったけど」
10月25日(火) オンライン
患者さん・一般の方向け
【オンライン】乳がん疾患啓発セミナー わかる乳がん〜わたしにあった治療の見つけ方〜
オピニオン
がんと就労~本人と職場を支える産業看護職のより良い支援とは~
錦戸 典子(東海大学大学院健康科学研究科)
病気になっても仕事を続けるための支援
荒木 葉子(荒木労働衛生コンサルタント事務所)
乳がんとともに生きる人を理解する
青木 美保(帝京大学医学部附属病院 帝京がんセンター 認定遺伝カウンセラー)
キチンと手術・ホンネで再建(KSHS)~乳がんぶっちゃけ話~
溝口 綾子(一般社団法人KSHS 代表 )
遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)のいまとこれから
中村 清吾(昭和大学医学部 外科学講座乳腺外科学部門教授、 昭和大学病院ブレストセンター長)
がん治療を楽にする口腔ケア
百合草 健圭志(静岡県立がんセンター 歯科口腔外科部長)
「がんと就労」広がる病院内での就労相談
近藤明美 (近藤社会保険労務士事務所)
がん治療と仕事の「両立支援」を考える~産業保健師の乳がん経験~
横山 淳子(パナソニック健康保険組合 保健師 )
トップページ 治療と乳房再建 イベント・セミナー情報 ニュース・トピックス オピニオン リリース情報 このサイトについて お問い合わせ