切除した乳がんの組織から、患者さん一人ひとりの乳がんの性質がわかる
エグザクトサイエンス株式会社は2021年8月10日、ホルモン受容体陽性かつHER2陰性で、リンパ節転移陰性およびリンパ節転移が3個までの早期浸潤性乳がん患者における遠隔再発リスクの提示、および化学療法が必要かどうかの判断材料となる「オンコタイプDX乳がん再発スコア®プログラム」が厚生労働省より承認されたと発表しました。「オンコタイプDX乳がん再発スコア®プログラム」は複数の遺伝子を調べる検査法「多遺伝子アッセイ」で、RT-qPCR法を用いたオンコタイプDX乳がん再発スコア検査と日本向けに開発したソフトウェアを組み合わせた製品です。
手術で切除したがんの組織から抽出した16個の癌関連遺伝子と5個の参照遺伝子の発現量を測定し、再発の危険度を算出。遠隔再発リスク、術後化学療法で効果が得られるかどうかがわかります。
最適な治療を選ぶ助けに 効果がない化学療法は省略へ
今回の承認で対象となっている「ホルモン受容体陽性かつHER2陰性」の患者さんの場合、これまでの乳がん治療において、術後化学療法(抗がん剤治療)が必要ではない症例に対しても過剰な治療が行われてきた可能性があります。乳がんはがん細胞の特徴により4つに分類(サブタイプ)され、薬物療法を行う際、どの薬が適しているかを決める参考として使われています。
「ホルモン受容体陽性かつHER2陰性」の患者さんに推奨される薬物療法はホルモン療法、中でも再発のリスクが高いと考えられる患者さんには、術後に化学療法(抗がん剤)が上乗せされます。
この上乗せは「年齢」「腫瘍の大きさ」、「リンパ節転移」、「病理医ががんの原発病巣の組織切片を顕微鏡で観察して悪性度を判断する「グレード分類」、細胞増殖能を示すタンパク質「Ki67」などを参考に再発リスクを推測して決められていますが、明確な基準は確率していません。
ここに「オンコタイプDX乳がん再発スコア®プログラム」を加わる事で、より正確な再発リスク、そして化学療法によってどれだけ再発リスクが下げられるのかを確認でき、最適な治療の選択を助けます。
化学療法には、脱毛などのアピアランス面だけではなく、吐き気・嘔吐、倦怠感、しびれ、好中球減少・貧血、不妊など様々な副作用があり、将来的なQOL(生活の質)に影響を及ぼしますので、効果のない化学療法を省略できることには大きな意義があるでしょう。
「乳がんのサブタイプと推奨される薬物療法」
(ザンクトガレンコンセンサス会議2017で提示されたサブタイプ分類を参考に作表)
これまでも「オンコタイプDX乳がん再発スコア®プログラム」が有用であることは確認されていましたが、自費診療で約50万円と高額な検査のため、なかなか受けにくい状態でした。
この承認により保険適用となることで、多くの乳がん患者さんがより適切な医療を受けられる環境になると期待されます。
・オンコタイプ DX 乳がん再発スコア® プログラムの薬事承認を取得(エグザクトサイエンス株式会社/2021年8月) ■取材
・文/瀬田尚子
出版社勤務を経て、フリーランスのライター・編集者に。医療・健康分野を中心に雑誌、書籍、WEBメディアなどで取材・執筆を行う。
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