生活の質(QOL)向上のために、傷ケアは大切
自家組織を使った乳房再建など、乳がん手術によって体に残ってしまった傷あと。見た目はもちろんですが、目立つ傷あとの場合は痛みを伴うこともあり、大きな問題となっています。しかし「術後の傷あと」に関する情報は少なく、予防や治療ができること自体、あまり知られていません。
2021年6月、NPO法人エンパワリング ブレストキャンサー(E-BeC) が、オンラインセミナー 「傷あとはここまで綺麗になる!生活の質(QOL)向上を目指して」を開催しました。講師は傷あと治療の第一人者、日本医科大学付属病院 形成外科・再建外科・美容外科部長の小川令先生です。
「E-BeCのウェブサイトの中で一番アクセスが多いのが『術後の傷』に関するコンテンツ※です。このように乳がん患者さんの関心が高いテーマにもかかわらず、手術後の傷ケアに関するセミナーはあまり行われていません。ぜひ多くの患者さんにこの情報が届いてほしいと思い、今回のセミナーを企画しました」(E-BeC理事長・真水美佳さん)
※NPO法人エンパワリング ブレストキャンサー(E-BeC) ウェブサイト「術後の傷をきれいに治すために」はコチラ
最低3ヶ月、傷の内部が治るまで安静が必要
セミナーの冒頭「傷あとやケロイドは治療法がないと思われていますが、予防できるし、完全に傷を消すことはできませんが気にならないくらいに治すことはできます。見た目の悪さ、痛み、かゆみから解放されます」と力強い言葉を発した小川先生。
傷が赤く盛り上がって目立つようになったものを「肥厚性瘢痕」、それがさらに悪化し、もとからある傷の範囲を超えて赤みや盛り上がりが広がっていくものを「ケロイド」といいます。手術後の縫合創は治ろうとする際、コラーゲンが産生されて一時的に硬くなるのですが、その傷が引っ張られると炎症が起きて肥厚性瘢痕やケロイドにつながります。
傷の表面は1週間〜10日ほどで閉じますが、さらに内部の層まで治るには3ヶ月ほどかかります。
「表面が閉じたところで、傷が治ったと思って動かしてしまう人がいますが、炎症がひどくなり、肥厚性瘢痕やケロイドの原因となります。予防のためには最低3ヶ月は安静を保ちましょう」(小川先生)
物理的な刺激は、肥厚性瘢痕やケロイドの重症度の大きなリスクとなる。
肥厚性瘢痕やケロイドを予防するには
患者さんにできる傷ケアは、テープで傷を固定することです。体の動きとともに傷が引っ張られないように傷あとケア用などのテープで固定します。期間は最低3ヶ月間。傷の表面が閉じたら固定を開始し、傷をさわってやわらかくなれば終了して大丈夫です。
E-BeCが発行している「乳房再建手術Hand Book」では「乳がん患者さんのためのQOL向上ガイド」として「手術の傷についてのセルフケア」(小川先生の監修)が紹介されています。「乳房再建手術Hand Book」は自由にダウンロードできますので、ぜひ参考にしてください。
・「乳房再建手術Hand Book」はコチラ
肥厚性瘢痕やケロイドの治療
肥厚性瘢痕やケロイドになってしまった傷あとでも、治療法はあります。
<主な治療法> ■副腎皮質ホルモンテープ剤 →「もしテープでケアをしたけれど傷が赤くなった。痛痒くなってしまったという場合は、すぐに薬のついたテープに切り替えてください。肥厚性瘢痕になりかけであれば治療にあまり時間はかかりません」(小川先生) ■放射線治療 ■手術
副腎皮質ホルモンテープ剤は一般病院でも大丈夫ですが、放射線治療と手術に関しては瘢痕・ケロイド治療を専門に行う施設のみでの対応となります。
傷あと治療の第一人者、日本医科大学付属病院の小川令先生。
セミナーの後半では、参加者の数多くの質問にていねいに答えてくれた。
次回のE-BeCオンラインセミナー「乳房再建手術Hand Book」シリーズは、7月4日(日)に開催。乳がん治療の前にぜひ始めたい「口腔ケア」がテーマです。詳しくは<コチラ>よりご覧ください。
■取材
・文/瀬田尚子
出版社勤務を経て、フリーランスのライター・編集者に。医療・健康分野を中心に雑誌、書籍、WEBメディアなどで取材・執筆を行う。
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