2020年11月02日

トリプルネガティブ乳がんの再発を防ぐ治療薬を 臨床試験のためのクラウドファンディングが2020年10月よりスタート⑵

キーワード:治療
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神戸大学医学部の谷野裕一特命教授(中央)。医局員のみなさんと

 がん細胞に2種類のホルモン受容体、HER2タンパクのいずれも存在しないトリプルネガティブ乳がんは、増殖能力が高く、再発率が高い傾向にあります。

 「トリプルネガティブ乳がんの再発を減らすのに有効と考えられる抗がん剤『カルボプラチン』を、患者さんに届けたい」として、神戸大学医学部乳腺内分泌外科特命教授、国際がん医療研究センター副センター長の谷野裕一先生が臨床試験の資金の一部を募るクラウドファンディングを2020年10月より始めました。

術前化学療法で効果の低かった人のみを対象に、カルボプラチンの有効性を検証

 「これまで各国でカルボプラチンの研究が行われており、イギリスやドイツの臨床試験ではトリプルネガティブ乳がん再発時に有効な可能性が高いというデータが出ている」と谷野先生は言います。

 イギリスでは、再発乳がんの標準薬である抗がん剤、タキサン系の「ドセタキセル」の単剤とカルボプラチンの単剤での比較試験の結果が2014年に発表されたのですが、トリプルネガティブ乳がんの再発に対して、カルボプラチンとドセタキセルの効果が同じだったことに驚きました。

 また同じく2014年、ドイツの臨床試験では、術前化学療法にカルボプラチンを加えた場合、加えない場合と比較すると手術時にがんが消失している割合が高く、術後の再発も低いことが確認されました。

 ところが2016年に発表されたアメリカの試験では、カルボプラチンを術前化学療法に追加したことでがんの消失率は上がったものの、再発率と生存率では、カルボプラチンの有無による差は認められませんでした。

 「トリプルネガティブ乳がんの術後に用いて再発を防ぐことができると言い切るには世界的にみてもデータが少なく、そのためガイドラインでカルボプラチンの使用が支持されていません。今回の臨床試験では有効性が高いというデータが偶然ではなく必然であることを証明するために、再発の可能性の高い『術前化学療法で効果の低かった人』のみを対象に、カルボプラチン単独の術後化学療法を行い、再発を抑える効果を確認します。さらにリンパ節転移、BRCA機能不全の患者さんをそれぞれの群に振り分け、それぞれに対する効果も確認します」(谷野先生)

多額の費用がかかる臨床試験 借金を背負ってでもやり通そうと決意

 「カルボプラチンが、トリプルネガティブ乳がんの再発防止に有効である可能性が高い」とわかっているのに臨床試験が進まない。そこには経済的な問題があります。ひとつの臨床試験をするには薬代や治療費、データ管理など数千万円〜数億円もの費用がかかります。

 新薬であれば開発した製薬会社が費用を負担し、承認後にその利益を手にできるのですが、カルボプラチンはこれまで20年以上も使われてきたジェネリック医薬品であり、適応拡大されたとしても製薬会社の利益が薄いのが現状です。そのため製薬会社は消極的で、医師主導の臨床試験に対する協力も得られずにいました。

 カルボプラチンの臨床試験は、10年前に和歌山の市民病院にいた時から計画していたという谷野先生。北里大学病院に赴任していた2013年からの4年間も実現を模索していたものの、運営資金と薬剤費、検査費用などで5〜6000万円かかる資金面の問題が大きく立ちはだかり、進めずにいました。そして2017年に神戸大学に赴任。

 「『お金ができたらやります』とか『薬が手に入ったらやります』とか、そんなことを言っていたら絶対に実現できない。それまで何もできていない自分に対するふがいなさも手伝い、借金を背負ってでもやるべきことはやり通そうと決意。2017年から臨床試験の審査に向けて準備を具体的に始め、2018年3月にはIRB(治験審査委員会)に申請を済ませました」(谷野先生)

今回の臨床試験の拠点となる、神戸大学医学部

 次回は、「第3回目」をお届けします。

クラウドファンディング専門サイト READY FOR  「トリプルネガティブ乳がん:再発を防ぐ治療薬、確立のための臨床試験を」

■取材 ・文/瀬田尚子
出版社勤務を経て、フリーランスのライター・編集者に。医療・健康分野を中心に雑誌、書籍、WEBメディアなどで取材・執筆を行う。
(日本医療・健康情報研究所)

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