アンケート調査の結果を発表する一般社団法人ピアリングの上田のぶこ代表理事
2020年1月25日、「乳房再建手術」への正しい理解と乳がん患者のQOL向上を目指して活動するNPO法人E-BeCと、女性特有のがんに直面する人のため、無料会員制SNSの運営などサポート活動を行う一般社団法人ピアリングの共催による緊急セミナー「患者と医療者がともに考えるインプラント・リコール問題」が開催。
E-BeCとピアリング、2つの団体が中心となって、昨年7月の乳房再建用インプラントの販売停止・自主回収によって影響を受けた人たち(乳房再建を予定していた女性、すでに該当製品で乳房再建を終えていた女性)に対してアンケート調査「シリコンインプラント・リコール問題を踏まえた乳房再建に関わる意識調査」を実施。
その調査によって明らかになった問題点について、乳がん患者や医師など約100人の参加者を前に報告されました。
広がるインプラント・リコール問題の影響 「精神的に不安定になった」人も
このアンケート調査が実施された期間は2019年12月9日~18日。監修は一宮西病院の鈴木瞳医師です。
回答者は国内外在住の24歳から70歳までの958人で、年齢中央値は48歳。うち乳房全摘術を受けたのは821人。うち40%の人がリコール問題の起こった2019年に手術を受けています。

乳房全摘術を受けた方への、乳房再建の状況を問う設問で4.5%(37人)がリコール問題で乳房再建を中止にし、インプラントもしくはエキスパンダーを入れていたが抜去した人は合わせて2.2%(18人)でした。抜去理由については67%が「リコール問題が原因」としていました。

「治療や乳房再建の方針に対してインプラント・リコール問題により影響を受けていますか?」という設問に対しては、全体の48.6%が「かなり影響を受けている・なんらかの影響を受けている」と回答。
エキスパンダー挿入中の165人においては80%が、乳がんの手術や抗がん剤治療などが一段落したところで再建を行う二次再建を検討中の54人においては78%が「かなり影響を受けている・なんらかの影響を受けている」と回答しています。

「どんな影響を受けているか」という設問では、乳房再建済みの人では「未分化大細胞型リンパ腫 (BIA-ALCL)になるのでは」と不安が増大したという回答が一番多く、エキスパンダー挿入中の人では「再建時期が先延ばしになった」「自分にとって最適な再建方法がわからなくなった」という回答が多くみられます。
また現在の再建状況を問わず、全体の3割の人が「精神的に不安定になった」と回答しています。

またシリコンインプラントを挿入している人への設問を通して、医師から受けた術前の説明に対し「十分に納得した上で手術を受けた」という人はインプラント・リコール問題への不安が比較的少ないが、納得度合が下がるにつれ不安が増大するというあきらかな相関関係が見られました。

そして、シリコンインプラントを挿入している方への「今回のリコールを受け、再建を受けた病院(医師)から説明はあったか?」という設問では、62.6%の人が「説明があり、内容についてある程度理解・納得した」と答えています。
その一方、「説明はあったが、不十分であると感じた」(11.4%)、「説明がなかった」(14.2%)など満足な説明を受けられなかった人が37%にも及ぶことが気になると、ピアリングの上田代表理事は指摘。
「十分に医療者とコミュニケーションをとることで、ゼロにはならないかもしれませんが、リンパ腫への不安が減り、冷静に経過観察ができるのではないかと思っています」(ピアリング・上田代表理事)
このアンケート調査の最後に設けられた「医療者、メーカー、行政等に対して望むことは?」と自由記述の設問では、「複数社の安全な製品を承認し、選択肢を増やしてほしい」「正確な情報を、迅速に発信してほしい」といった回答が多数を占めました。
この緊急セミナーを結ぶにあたり、E-BeCの真水理事長は、「昨年8月に患者団体を代表して、厚生労働省に他社製品の保険適用など打開策を求める要望書を提出しました。
今回のアンケート調査も新たな承認に向けて、活用していきたい」と今後の活動について述べました。
【関連リンク】
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NPO法人エンパワリング ブレストキャンサー(E-BeC)
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一般社団法人ピアリング
■取材・文/瀬田尚子
出版社勤務を経て、フリーランスのライター・編集者に。医療・健康分野を中心に雑誌、書籍、WEBメディアなどで取材・執筆を行う。