医療者が患者からの質問に答えるトークセッション
2020年1月25日、東京都港区にて、NPO法人エンパワリング ブレストキャンサー(E-BeC)と一般社団法人ピアリングの共催による緊急セミナー「患者と医療者がともに考えるインプラント・リコール問題」が開催。乳がん患者や医師など約100人が参加しました。
「乳房再建手術」への正しい理解と乳がん患者のQOL向上を目指して活動するNPO法人E-BeCと、女性特有のがんに直面する人のため、無料会員制SNSの運営などサポート活動を行う一般社団法人ピアリング。
この2つの団体が中心となって、昨年7月の乳房再建用インプラントの販売停止・自主回収によって影響を受けた人たち(乳房再建を予定していた女性、すでに該当製品で乳房再建を終えていた女性)に対してアンケート調査を実施。
今回のセミナーは、その調査によって明らかになった問題点を参加者と共有し、医療者とともに考えていく場となりました。
新たに承認された「スムースタイプのラウンドインプラント」には合併症も
開会の挨拶をするE-BeC理事長・真水美佳さん
司会をつとめるNPO法人E-BeC理事長・真水美佳さんからの開会の挨拶のあと、第1部として、東京医科大学病院の石川孝乳腺科科長とがん・感染症センター都立駒込病院の寺尾保信形成再建外科部長の講演が行われました。
東京医科大学病院の石川孝乳腺科科長
東京医科大学病院の石川孝乳腺科科長の講演タイトルは「乳癌はひとつの病気ではありません」。
乳がんは少なくとも、ホルモン受容体陽性の「ルミナル型」、がんの増殖に重要な役割を果たしているHER2受容体が過剰に発現している「HER2陽性」、そのどちらでもない「トリプルネガティブ」などがあり、それぞれ違う治療法が行われているという内容です。
また乳がんでは、術前の抗がん剤治療によりがん細胞が完全に消失するpCR率が向上しつつあり、ここ数年、「手術を省略」という選択肢も含めての臨床試験が多く行われているという興味深い情報もありました。
がん・感染症センター都立駒込病院の寺尾保信形成再建外科部長
がん・感染症センター都立駒込病院の寺尾保信形成再建外科部長の講演タイトルは「シリコンインプラントによる乳房再建 現状への対応と今後」。
シリコンインプラントによる乳房再建を希望する人、再建した人に向けて、最新の情報とともに、今後の選択肢を提示してくれました。
販売停止を受けて、2019年10月に代替品として新たに承認されたアラガン社の「スムースタイプのラウンドインプラント」は、リップリングや被膜拘縮といった合併症、自然な乳房に見えにくいという整容性低下の可能性があり、広背筋や脂肪注入などを活用するなど、医療技術によって補う必要がでてくるといったお話がありました。
アンケート調査の結果を発表するピアリングの上田のぶこ代表理事
続いて第2部では、事前に行われた「インプラントリコール問題を踏まえた乳房再建に関わる意識調査」の結果について、一般社団法人ピアリングの上田のぶこ代表理事から報告があり、最後はピアリングのSNS会員と石川医師、寺尾医師が参加してのトークセッションへ。
トークセッションで質問をする、ピアリング会員の女性
ピアリングから4人の女性会員が登壇。販売停止・自主回収の理由となったリンパ腫への不安、今後のインプラントによる乳房再建がどうなるかなど、様々な視点から石川医師、寺尾医師へと質問が投げかけられ、インプラント・リコール問題による不安をいただいている患者さんたちの気持ちを代弁する形となりました。
次回は、「
【E-BeC×ピアリング】(2)~インプラント・リコール問題により患者が受けた影響、調査結果を報告~」をお届けします。
【関連リンク】
・
NPO法人エンパワリング ブレストキャンサー(E-BeC)
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一般社団法人ピアリング
■取材・文/瀬田尚子
出版社勤務を経て、フリーランスのライター・編集者に。医療・健康分野を中心に雑誌、書籍、WEBメディアなどで取材・執筆を行う。