
登壇したがん・感染症センター都立駒込病院 形成再建外科部長・寺尾保信先生
2019年8月に開催された「ジャパンキャンサーフォーラム2019」(主催・運営:認定NPO法人キャンサーネットジャパン)において、がん・感染症センター都立駒込病院 形成再建外科部長・寺尾保信先生による講演「乳房再建 〜乳がん治療の選択肢としての乳房再建:ここまでできる!」(共催・NPO法人エンパワリング ブレストキャンサー)が行われました。 ブレスト・インプラントを用いた乳房再建の手術において、公的医療保険(健康保険)の適用が認められているのは、アラガン社のブレスト・インプラントとティッシュエキスパンダー(組織拡張器)のみであることから、ブレスト・インプラントを使用した乳房再建手術を考えている方、そしてティッシュエキスパンダー(組織拡張器)の手術をすでに受け、ブレスト・インプラントの挿入を待機している方の間で、今後を危惧する声が広がっています。 講演の中で紹介された「乳がんに罹患し、今後、ブレスト・インプラントによる乳房再建を希望なさっている方」「現在、ティッシュエキスパンダーを入れている方に向けての今後の選択肢」に向けての今後の選択肢についてまとめました。
一次再建をご希望の方の選択肢
乳房再建には、乳がんの手術と同時に乳房再建も行う「一次再建」と、乳がんの手術とは別に、あとから乳房再建を行う「二次再建」という方法があります。 またティッシュエキスパンダー(組織拡張器)を使うかどうかで、乳房再建は「一期再建」と「二期再建」に分かれます。使わないのが「一期再建」、ティッシュエキスパンダーを使って、2回に分けて再建する方法が「二期再建」です。 手術で乳房に皮膚欠損がある場合、「一期再建」で自家組織再建を行うと皮膚がパッチ状になってしまいます。またインプラントによる再建では、インプラントを入れるためのスペースをつくるために皮膚の拡張が必要になるので、「一期再建」はおすすめできません。 まずは乳がんの手術と同時に乳房再建も行う「一次再建」を希望する方の選択肢を紹介します。
●1.保険適用となっている自家組織再建を行う
●2.インプラントご希望であれば一次再建を行わず、他社のリスクの低いインプラントの保険適用を待って二次再建を行う
●3.一次再建で保険適用のエキスパンダー(乳房再建用ではない)を使用する→のちにスムースラウンドインプラントに交換、あるいは自家組織再建を行う。またはエキスパンダーを留置しながら、他社のリスクの低いインプラントの保険適用を待ってもらう
※他社のリスクの低いインプラント:MENTOR社(表面はマイクロテクスチャード、FDA承認)、MOTIVA社(表面はシルクテクスチャード、FDA未承認)
「一次再建の場合、大事なのは乳がんの治療があることです。乳がんの治療を遅らせることがないようお願いしたいです」(寺尾先生)
二次再建をご希望の方の選択肢
乳がんの手術とは別に、あとから乳房再建を行う「二次再建」を希望する方の選択肢は以下の通りです。
●1.保険適用となっている自家組織再建を行う
●2.他社のリスクの低いインプラントの保険適用を待つ
●3.二次再建で保険適用のエキスパンダー(乳房再建用ではない)を使用する→のちにスムースラウンドインプラントに交換、あるいは自家組織再建を行う。またはエキスパンダーを留置しながら、他社のリスクの低いインプラントの保険適用を待ってもらう
●4.自費でインプラント再建を行う
「他社のリスクの低いインプラントが保険適用になるよう学会としては動いていますが、それがいつになるか現段階でははっきりしません。インプラントによる再建をご希望の場合はラウンドスムースインプラントのみ保険手術が可能です。「しずく形」のインプラントは自費になることも心に留めおいてください」(寺尾先生)
ティッシュエキスパンダー(組織拡張器)挿入後の方の選択肢
●1.保険適用となっている自家組織再建を行う
●2.保険適用のラウンドスムースインプラント(アラガン社)に一時的に交換する
●3.自費で他社のリスクの低いインプラントを入れる
●4.エキスパンダーは2年くらい入れていてもいいので、とりあえずこのままで他社のリスクの低いインプラントの保険適用を待つ
※他社のリスクの低いインプラント:MENTOR社(表面はマイクロテクスチャード、FDA承認)、MOTIVA社(表面はシルクテクスチャード、FDA未承認
「この中では4が一番現実的な選択肢かと思います。2のアラガン社のラウンドスムースインプラントは保険適用ですが、ラウンド型は大きいサイズが無く、下垂乳房ができないという短所があります。また表面加工がスムースの場合、被膜拘縮や表面にシワがよるリップリングが起きるリスクが高いので、一時的なものとして考えていただいたほうがいいかと思います。3.は可能ですが、保険適用のエキスパンダーを自費でインプラントに交換するのは、正確には混合診療となる可能性があります。主治医によく相談してください」(寺尾先生)
ジャパンキャンサーフォーラム2019認定NPO法人キャンサーネットジャパン
NPO法人エンパワリング ブレストキャンサー
■取材・文/瀬田尚子
出版社勤務を経て、フリーランスのライター・編集者に。医療・健康分野を中心に雑誌、書籍、WEBメディアなどで取材・執筆を行う。
関連ニュース・トピックス
- 乳がん手術で失った乳頭・乳輪の再建〜E-BeCオンラインセミナーより〜( 2 )
- 乳がん手術で失った乳頭・乳輪の再建〜E-BeCオンラインセミナーより〜( 1 )
- プチプラコスメで、手軽にアピアランスケア( 2 )
- プチプラコスメで、手軽にアピアランスケア( 1 )
- コロナ禍の影響は患者の経済環境にも! (一社)ピアリング「第2回新型コロナウィルス感染症(COVID-19)感染拡大によるがん患者さんへの影響緊急実態調査」アンケート結果を公開
- お寺で、がんカフェ。 宗教を問わず、不安や悩みを抱える人たちの居場所として
- 乳がんとコロナ 気になる疑問に医療者が答える オンライン市民公開講座「コロナ禍における乳がん診療」⑵
- 通院や治療に対する不安を軽く オンライン市民公開講座「コロナ禍における乳がん診療」⑴
- 「低脂肪食」が女性の健康に大きく貢献 がんや糖尿病、心臓病のリスクが減少
- 生活を朝型にする乳がんリスクを減少できる 睡眠障害はホルモン分泌に影響