販売停止から3ヶ月、乳房再建用の製品が存在しなかったエキスパンダー
2019年10月10日、11日に開催された第7回日本オンコプラスティックサージャリー学会総会では、今年7月のアラガン社による乳房再建用のブレストインプラントとティッシュ・エキスパンダーの回収および販売停止の件を受けて、「緊急患者説明会」を行いました。
登壇したのは日本乳房オンコプラスティックサージェリー学会理事長で獨協大学形成外科の朝戸裕貴医師です。
説明会の中で、学会として早急な認可を要望した結果、10月8日に厚生労働省により回収および販売停止となった乳房再建用のブレストインプラントとティッシュ・エキスパンダーの代替品として承認されたことが伝えられました。
ブレスト・インプラントにより引き起こされる血液のがん「BIA-ALCL」との関連性から発売停止となったアラガン社のテクスチャードタイプのブレストインプラントとティッシュ・エキスパンダー。結果として、日本で保険適用となっている製品がすべて販売停止となりました。
8月26日には、以前販売されていたアラガン社の「ナトレル10、40」というスムーズタイプ(表面が滑らかなタイプ)のブレストインプラントが販売再開となったものの、ティッシュ・エキスパンダーについては保険適用のものはもちろん、適用外でも乳房再建用では代わりとなるものが存在しませんでした。まずは今回の承認でそうした状況は脱したといえます。
学会として、リスクが少ないマイクロテクスチャードタイプの早期承認を目指す
今回薬事承認を受けたのは、アラガン社の「ナトレル® 133 ティッシュ・エキスパンダー」と「ナトレル® ブレスト・インプラント」。
「ナトレル® 133 ティッシュ・エキスパンダー」は、胸の自然な形を作りやすいしずく型と呼ばれるアナトトミカル型の皮膚拡張器で、表面はスムース加工です。回転や位置のズレを防止するために、組織に縫いつけるタブがついています。
「ナトレル® ブレスト・インプラント」は、ラウンド型でスムーズタイプのブレストインプラントです。Inspiraというシリーズの製品で、8月から再販売された「ナトレル10、40」とは異なり、硬さの異なる3類のゲルが中に入っています。
「緊急患者説明会」の中で朝戸理事長は、参加者からの質問に答える形で、販売停止になったテクスチャードタイプよりもBIA-ALCLのリスクが低く、スムースタイプよりも被膜拘縮などの問題が少ない「マイクロテクスチャード」タイプのインプラントについてこう述べています。
「日本人は欧米人と違い、傷がケロイド化しやるいため、スムーズタイプは難しい。スムースタイプより少しだけ表面がザラっとしているマイクロテクスチャードタイプは世界的に広く流通している製品ですので、学会としては販売会社と折衝を重ね、できるだけ承認までの期間を短縮したい」と今後の取り組みを明らかにしました。
■文/瀬田尚子 出版社勤務を経て、フリーランスのライター・編集者に。医療・健康分野を中心に雑誌、書籍、WEBメディアなどで取材・執筆を行う。
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