
登壇したがん・感染症センター都立駒込病院
形成再建外科部長・寺尾保信先生
2019年8月、国立がん研究センター築地キャンパス研究棟にて開催された「ジャパンキャンサーフォーラム2019」(主催・運営:認定NPO法人キャンサーネットジャパン)において、がん・感染症センター都立駒込病院 形成再建外科部長・寺尾保信先生による講演「乳房再建 〜乳がん治療の選択肢としての乳房再建:ここまでできる!」(共催・NPO法人エンパワリング ブレストキャンサー)が行われました。

開演の挨拶を行ったNPO法人
エンパワリング ブレストキャンサーの真水美佳理事長
ブレスト・インプラントを用いた乳房再建において、公的医療保険(健康保険)の適用が認められているブレスト・インプラント(人工乳房)とティッシュエキスパンダー(組織拡張器)の、製造・販売を行うアラガン社が7月に販売停止・自主回収を決定したことを受け、会場は情報を求める人たちであふれ返っていました。
販売停止・自主回収の理由となったリンパ腫「BIA-ALCL」とは
講演の前半、一般社団法人日本乳房オンコプラスティックサージャリー学会が発表している内容について、寺尾先生がわかりやすく解説してくれました。まずは、販売停止・自主回収の原因となった「ブレスト・インプラント関連未分化大細胞型リンパ腫(BIA-ALCL)」について。
「インプラントの周りに自分の体が被膜をつくるのですが、そこから発生するまれなリンパ腫です。もともとALCLは悪性度としては中間ぐらいのがんですが、一般的なALCLと比べてBIA-ALCLはゆっくりと進行します。人工物はなんであれ、長期間体内に留置するとALCLを発症する可能性がありますが、中でも保険適用になっているアラガン社のインプラントとエキスパンダーがなりやすい。その理由はBiocellというテクスチャード加工をされた表面構造にあります」(寺尾先生)
以下、BIA-ALCLの頻度、症状、治療についての寺尾先生の説明をまとめました。
<頻度>
・アラガン社のインプラントは、約3,300人に1人(0.03%)に発症
・アラガン社のインプラントは、他社の製品に比べて発症リスクが約6倍
・全世界での発症は573例で、死亡例は33例(5.8%)
<症状>
・インプラント挿入後、平均9年で発症
・症状は、インプラントのまわりに体液がたまる遅発性漿液腫(約80%)、腫瘤(約40%)、疼痛、腫脹(炎症で腫れ上がる)など
<治療>
・病変が被膜内にとどまっている場合(ステージI)は、被膜切除とインプラント抜去で治癒が期待できる
・リンパ節などの転移が伴う場合(ステージⅡ〜Ⅳ)は、化学療法や放射線治療が必要
インプラントによる乳房再建手術を受けた方へ 今後の検査、交換時期など に続く
ジャパンキャンサーフォーラム2019
認定NPO法人キャンサーネットジャパン
NPO法人エンパワリング ブレストキャンサー
■取材・文/瀬田尚子
出版社勤務を経て、フリーランスのライター・編集者に。医療・健康分野を中心に雑誌、書籍、WEBメディアなどで取材・執筆を行う。
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