
パネルディスカッションの様子
4人の医療従事者と患者会代表が、多岐にわたるテーマで講演
2019年4月14日、東京都渋谷区にある東京ウィメンズプラザにおいて、トリプルネガティブ乳がん患者会「ふくろうの会」による「トリプルネガティブ乳がんフォーラム2019」が開催され、全国各地から約200名が来場しました。乳がん患者のうち約10%を占めている「トリプルネガティブ乳がん」は、がん細胞にホルモン受容体、HER2のどちらも存在せず、薬物療法が抗がん剤などに限定されるため、他のサブタイプに比べて早く無治療になります。
また、再発率も他のタイプに比べ高いため、そうした状況に不安を感じている患者さんは多く、患者会として何かできることはないかと、「ふくろうの会」では、正しい情報の発信やトリプルネガティブ乳がんの予後を改善するための活動を積極的に行っています。
「ふくろうの会」代表の福原宏美さん
「ふくろうの会」代表の福原宏美さんの開会の挨拶の後、神戸大学附属病院 乳腺内分泌外科 特命教授で、「ふくろうの会」の顧問も務める谷野裕一先生を座長に、講演が始まりました。
1番目はがん研有明病院遺伝子診療部の吉田玲子先生による講演で、タイトルは「乳がんと遺伝性腫瘍 がんになりやすい体質って」です。
トリプルネガティブ乳がんは、他のタイプの乳がんに比べて遺伝性乳がんの比率がやや高いことが特徴であり、遺伝子検査やその治療法に興味がある患者さんがしばしばいます。ここ数年、一般の人にも注目を集めている遺伝性腫瘍について、専門家ならではの視点でわかりやすく解説してくださいました。
遺伝性腫瘍についての講演の様子
続いては北里大学病院 乳腺・甲状腺外科 講師の小坂愉賢先生の講演で、タイトルは「乳がん治療薬開発の流れと、今後の展望」です。
冒頭に「決してネガティブな病気であるという意味ではないのに、"トリプルでネガティブ"なんて、聞こえが悪いですよね。ここではトリプルネガティブではなく、『ホルモン受容体、HER2陽性でない仲間たち』と呼びます」と明るく話す小坂先生の言葉に、会場からは笑い声が。
トリプルネガティブ乳がんの治療薬について、現在進行中の治験のほか、今後期待されているものについてお話がありました。
朗らかな語り口で、会場からは笑い声も
3番目に登壇されたのは、公益社団法人日本医師会 治験促進センターの丸山由起子先生。タイトルは「治験、臨床試験とは何か」です。
薬剤師であり治験コーディネーター(CRC)である丸山先生からは、治験とはどういうものかという説明のほか、医師が主導となって治験を実施する「医師主導治験」や治験の情報が検索できる「臨床情報研究ポータルサイト」の紹介がありました。
患者自らがなかなか収集できない治験情報をこのサイトで検索できるということで、客席はもちろん、座長の谷野先生まで興味津々でした。
治験促進センターの丸山由起子先生
4番目は神戸大学附属病院 乳腺内分泌外科 特命教授の谷野裕一先生の講演で、タイトルは「神戸大学発トリプルネガティブ乳がんから患者さんを救うためのチャレンジ」です。
ご自身がすすめている、トリプルネガティブ乳がんに有効と考えられる抗がん剤「カルボプラチン」の臨床試験について語った谷野先生。
そして講演の最後には、「ふくろうの会」代表の福原宏美さんが再び登壇しました。トリプルネガティブ乳がんの予後を改善させるために何かをしたい。その思いから患者会を発足し、患者として何ができるか、悩み、考え、行ってきたこれまでの活動を紹介。
また、これから谷野先生の抗がん剤「カルボプラチン」の臨床試験に参加してくれる患者さんを集める活動を行う予定があること、そして会場の皆さんへも「患者としてできることがある、一緒に考えていきましょう」というメッセージを伝え、話を結びました。
治験、臨床試験をテーマにしたパネルディスカッション
講演終了後には、講演をしてくださった先生方によるパネルディスカッションが行われ、治験や臨床試験を患者として受ける意味、受ける上でのリスク、また患者会がそこにどう関わっていけるのかについて、率直な意見交換が行われました。
閉会の挨拶で「ふくろうの会」代表の福原さんは会場の参加者に対し「いろいろな状況の方がいると思いますが、決して一人ではないと思っておかえりいただけたら幸いです」と感謝の気持ちを伝えました。
盛況のうちに終了した「トリプルネガティブ乳がんフォーラム2019」。ふくろうの会では、今後またフォーラムを開催する予定だそうです。
■文/瀬田尚子
出版社勤務を経て、フリーランスのライター・編集者に。医療・健康分野を中心に雑誌、書籍、WEBメディアなどで取材・執筆を行う。
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