
顧問をつとめる神戸大学医学部付属病院の谷野裕一医師を囲んで
――――――――がん細胞にホルモン受容体、HER2のどちらも存在しない「トリプルネガティブ乳がん」は乳がん患者の約10%を占めています。トリプルネガティブ乳がんに特化した患者会「ふくろうの会」は、トリプルネガティブ乳がん患者の有志によって2016年1月に設立されました。
日本医科大学付属病院乳腺科の医師で、「ふくろうの会」の創立メンバーである、副代表の金丸里奈さんに「ふくろうの会」の活動について、さらにお話をうかがいました。
8000名の署名を集め、臨床試験のために薬剤の無償提供を
「ふくろうの会」の活動の目的は、以下の3点です。
1. トリプルネガティブ乳がんの正しい情報の発信
2. 患者同士の交流
3. 新薬・適用外薬を含めたトリプルネガティブ乳がんの予後を改善するための活動
「ふくろうの会」として最も力を入れているのが、3のトリプルネガティブ乳がんの予後を改善するための活動だそうです。
「代表の福原は会を始めた頃から『私たちはお茶飲みの患者会じゃない。予後を改善するための活動が、会の一番の目的だ』と話していました。ただ会自体が大きくならないと、そういう力も持てないので、まずはしっかりと会の運営をしながら、この3年間、何かできることはないかと探してきました。
すると福原の主治医である谷野先生(神戸大学医学部付属病院)が、トリプルネガティブ乳がんの治療薬として期待されるカルボプラチンの適用拡大に取り組んでいらっしゃるという話があり、何かできることはないかとこの活動を始めました」(金丸さん)
カルボプラチンは、白血病や卵巣がんなどで使われている抗がん剤で、多くの臨床試験でトリプルネガティブ乳がんにも有効である可能性が示唆されています。
乳がんでは転移再発のHER2タイプのみ保険適用とされていますが、HER2タイプにはもっといい薬があるので実際には使われていません。初発の乳がんにも保険適用を拡大するために、さらなる臨床試験が求められています。
この薬の臨床試験がなかなか進んでいない理由のひとつとして経済的な問題があります。試験に使用する薬代、データ整理や解析に何千万円とかかります。
新薬であれば開発した製薬会社が主導となり費用負担を行い、治験として医師と製薬会社が共同で進めていきます。承認されれば、その製薬会社の利益になるからです。
しかしながらカルボプラチンは後発薬も出ている歴史ある薬なので、トリプルネガティブ乳がんに対して適応拡大されても、先発である製薬会社にとって大きな利益にはつながりません。そのため、製薬会社が積極的に治験を行うことはなく、医師主導の臨床試験に対しても協力がなかなか得られずにいるのだそうです。
まずは一歩を踏み出すという気持ちで
「当会が考えたのは、製薬会社に薬剤を無償提供いただくことでした。この臨床試験開始のために何かしたいと考えましたが、当会のような小さな患者会が多額の寄付金を募ることは困難ですが、薬剤代が賄えるとなれば、費用軽減の大きな力になります。
署名を8000名分集めて、まずは開発した製薬会社にお願いしに行ったのですが断られまして、現在は後発品メーカーさんにお願いをしています。
今はまだ交渉中ですし、もし無償提供をしていただいたとしても、適用拡大まではいくつも壁がありますが、何かをしなければ始まらないので、まずは一歩を踏み出すという気持ちで取り組んでいます」(金丸さん)
治療の上で、金銭的な負担は避けて通れない問題です。金丸さんは乳腺科の医師として診察をしている時に、新薬を使う場合は、きちんと金銭的な負担について話をするそうです。
「新薬はいいものですが、抗腫瘍薬となると高価で正直使うことのできない人もいます。そういった経済的な面を考えると、新薬の開発だけではなく適用外薬の効果を確認して利用していくことは必要なことだと思います」(金丸さん)
「ふくろうの会」はカルボプラチンに関する取り組みを継続しながら、トリプルネガティブ乳がんの予後を改善させるような活動を今後も積極的に行っていくとのことです。
■トリプルネガティブ乳がん患者会 ふくろうの会
「トリプルネガティブ乳がんフォーラム 2019」
〜救える命を増やしたい! 私たち患者ができることは何か、今とこれからを考える〜
〇2019年4月14日(日)13:00〜16:00 東京ウィメンズプラザホール
参加費無料
■文/瀬田尚子
出版社勤務を経て、フリーランスのライター・編集者に。医療・健康分野を中心に雑誌、書籍、WEBメディアなどで取材・執筆を行う。
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