―――――――― がん細胞にホルモン受容体、HER2のどちらも存在しない「トリプルネガティブ乳がん」。乳がん患者のうち約10%を占めています。
情報が比較的少なく、同じ乳がん患者にもあまり知られていない「トリプルネガティブ乳がん」について、日本医科大学付属病院乳腺科の医師で、トリプルネガティブ乳がん患者会「ふくろうの会」の副代表である金丸里奈さんにお話をうかがいました。
これはサブタイプ分類と呼ばれ、薬物療法を選択する基準になります。乳がん患者の60〜70%がホルモン受容体陽性、15〜30%がHER2陽性といわれています。トリプルネガティブ乳がんは約10%です。
ホルモン受容体の「エストロゲン受容体」と「プロゲステロン受容体」、そしてHER2の3つが陰性(=ネガティブ)であることからトリプルネガティブ乳がんと呼ばれています。決して「ネガティブな病気」という意味ではありません。
ホルモン受容体とHER2がないため、ホルモン療法も、分子標的治療薬(抗HER2薬)も効果がなく、現在、使用可能な薬剤で効果が期待できるのは抗がん剤と、最近承認されたばかりのオラパリブという薬のみです。
しかしながらオラパリブは、トリプルネガティブ乳がん患者のうち数%しかいないBRCA遺伝子変異陽性乳がんのみへの適応であり、使用できる患者さんはごくわずかです。
薬物療法における選択肢の少なさと増殖能力の高さから、トリプルネガティブ乳がんに対しては「予後不良」という表現を使われることがあります。
現在、トリプルネガティブ乳がんでは、基本はアンスラサイクリン系と、それにタキサン系を追加する術前または術後の化学療法が行われています。
また再発した場合にも、最初から抗がん剤を使うことになります。薬剤の内容は、病状や初発から再発までの期間によって医師が判断します。
増殖能力が高いことから、トリプルネガティブ乳がんの場合「大きさ5mm以上」であれば、早期(非浸潤がんを除く)でも化学療法を考えなければいけません。
他のサブタイプの例を出すと、増殖能力が低いルミナルA型では「大きさ50mm以上」が化学療法を追加する基準です。
次回はトリプルネガティブ乳がんにみられる特徴と、トリプルネガティブ乳がんの7種類のサブタイプについて紹介します。
■文/瀬田尚子
出版社勤務を経て、フリーランスのライター・編集者に。医療・健康分野を中心に雑誌、書籍、WEBメディアなどで取材・執筆を行う。
薬物療法における、選択肢の少なさが課題
乳がんでは、病理検査によってがん細胞が持つタンパク質を調べ、その特徴から5つのタイプに分類されます。

出版社勤務を経て、フリーランスのライター・編集者に。医療・健康分野を中心に雑誌、書籍、WEBメディアなどで取材・執筆を行う。
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