
「脱毛」ほど知られてはいませんが、抗がん剤や一部の分子標的薬の副作用の1つに「爪の変形や変色」があります。アピアランス(外見、見た目)としての問題に加え、痛みや炎症を引き起こす可能性もあり、正しいケアが必要です。
がん治療の副作用による脱毛や爪の変色、肌のくすみなど、外見変化の悩みに対応する
みなとアピアランス・サポート相談室 (東京都港区)のアピアランスアドバイザー・森本恵さんは、正看護師の資格を持つネイリスト。看護師である森本さんがネイリストへと転身した理由、そして抗がん剤の副作用による爪のトラブルとケアについて、お話をうかがいました。
看護師からネイリストへ

正看護師の資格を持ち、病院で12年間、看護師として働いてきた森本さん。抗がん剤の副作用を始め、患者さんが抱える爪のトラブルを目の当たりにし、ネイルケアの重要さを感じたといいます。
「爪は生活を送る上でとても大切なところです。アピアランスとしてもそうですが、爪のトラブルで痛みや炎症があれば、健康な人でも手を使った作業がやりにくくなったり、うまく歩くことができなくなったりします。がんなど病気を抱えている患者さんであれば、こうした小さな炎症からも大きく体調を崩す可能性があります」(森本さん)
患者さんの力になりたいと、看護師の仕事をしながらネイルスクールに通い、資格を取得。しかし当時の看護師としての立場では、できることに限りがあり、爪のケアまでは配慮が行き届かない現実があったそうです。
昨年3月に看護師を辞め、現在は「みなとアピアランス・サポート相談室」のアピアランスアドバイザーとして、がん患者さんのネイルケアを担当なさっています。
甘皮ケアで、爪の成長する環境を整える
爪に起こる抗がん剤の副作用には「巻き爪」「爪が黒く変色」「爪にスジが入る」「爪が薄くなり、割れる」といったものがあります。爪は付け根にある爪母細胞で作られますが、抗がん剤によりこの部分が影響を受けて、爪の細胞分裂や増殖が損なわれることによって副作用が起こります。影響を受けた部分が爪に現れるのは、抗がん剤治療が終わって数ヶ月たった後です。
抗がん剤の副作用に対するネイルケアで、まず行うのは「甘皮ケア」です。手足を温かいお湯につけてふやかした後、余分な甘皮を取り除きます。結果、爪母細胞の環境を改善、健康で丈夫な爪が生えてくるのです。
「さらに甘皮ケアの後に保湿のオイルを塗るのですが、甘皮周りをキレイにすることでオイルの吸収がよくなり、さらに良い爪が生えてきます」(森本さん)

また抗がん剤の副作用で、指先にしびれが出ることもあるのですが、そうした方には、極力、圧をかけないように爪を切り、ネイルファイル(やすり)をかけるときも、1回ずつゆっくり、弱くかけるようにしているそうです。
使用しているネイルポリッシュも、がん患者さんのQOL向上を目的に開発されたもので、主成分は水で保湿効果があります。抗がん剤治療中の患者さんは、吐き気があったり、匂いにも敏感だったりしますが、この製品は有機溶剤が使われていないので、気になる揮発性の匂いが全くありません。

施術時間については、ネイルポリッシュを塗らない場合は手と足を合わせて約1時間とのことですが、これはあくまでも目安。
「体調によっては、もう少し短い時間で手早く施術することもできますし、もし話を聞いてほしいということがあれば、ゆっくり時間をかけて行っています。いらしたお客様のご様子を見て、そのあたりは判断するようにしています」(森本さん)
看護師の経験を生かした、体調に合わせたケアを提供する森本さん。治療中の人にとっては、大変心強いのではないでしょうか。
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(2) 自分でできるネイルケア へ続く
■参考
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みなとアピアランス・サポート相談室
TEL:03-3445-4010
e-mail:info@salon-esthe.com
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抗がん剤の副作用のよる爪の悩み 〜ネイリスト・森本恵さんに聞く(2) ネイルケアのポイント
■取材・文/瀬田尚子
出版社勤務を経て、フリーランスのライター・編集者に。医療・健康分野を中心に雑誌、書籍、WEBメディアなどで取材・執筆を行う。