2016年08月01日

がん治療と妊娠・出産  日本初の卵巣バンク設立で広がる選択肢

キーワード:ライフスタイル
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 化学療法(抗がん剤治療)やホルモン療法といったがんの治療によって卵巣機能が失われる可能性がある女性患者を対象に、本人の卵巣組織を凍結保存する「卵巣バンク」を設立すると、4月27日、レディースクリニック京野が発表しました。実際に卵巣バンクが開設されるのは、日本産科婦人科学会の承認後で、これが日本初となります。

乳がん治療によって損なわれる妊孕性を温存

 乳がんの治療で行われる化学療法やホルモン療法が、妊孕性(にんようせい:妊娠できる力のこと)に影響が及ぼす可能性があることは、将来的に妊娠や出産を望む患者さんにとって、深刻な問題となっています。

 化学療法では抗がん剤が卵巣に障害を与え、そのまま閉経してしまうこともあります。またホルモン療法では生理不順の副作用がありますが、治療期間が5年から10年という長期にわたることで、早発閉経の可能性があるほか、治療終了後には妊娠や出産が難しい年齢になっている場合も多くあります。

 開設される「卵巣バンク」では、卵巣事態にがん細胞が転移している可能性が低く、なおかつがんの治療で卵巣の機能が著しく低下する可能性が高い女性患者に対して、治療の開始の前に、腹腔鏡手術で片側卵巣の一部もしくはすべてを摘出し凍結保存。そしてがんの治療が終わり、病気を克服したのちに凍結しておいた卵巣を融解して元の体内に移植し、卵巣の機能を再度回復させます。

 凍結技術・設備を独立させ、全国にある卵巣摘出・移植を行う12の医療施設(東京・群馬・兵庫・青森など、2016年4月27日現在)と連携することで、卵巣凍結を地域格差なく選択できるようにすることを目的としています。

<卵巣バンクの流れ> 患者を出発点として
1.原疾患治療施設または内視鏡医のいる専門施設にて卵巣を摘出
2.卵巣を摘出し、卵巣バンクに搬送
3.卵巣バンクにて卵巣組織を凍結保存
4.原疾患治療後、卵巣バンクから移植可能な施設へ搬送
5.卵巣を患者に移植

卵巣凍結であれば自然妊娠も可能

 <妊孕性の温存のための生殖医療>
1. 卵子凍結(受精させる前の卵子を凍結保存)
2. 受精卵凍結(外に取り出した卵子と精子を受精させた後、凍結保存)
3. 卵巣凍結(片側卵巣の一部もしくはすべてを摘出し、凍結保存)

 従来は卵子凍結や受精卵凍結が行われ、成功例も多く、治療方法も確立されています。一方、卵巣凍結は早発卵巣不全の患者2例と、まだまだ出産例は少ないものの、世界ではがん患者を含め100名近くが出産し、加速度的に臨床が進んでいます。また2015年に発表された海外4施設をまとめたデータでは80名に移植したところ20名が妊娠という結果となり、その今後が注目されています。 

   卵巣凍結とほかの手法との大きな違いは、対象年齢と治療期間です。対象年齢は摘出が0〜37歳までと、思春期前の子供でも対応できます。移植は45歳まで。排卵誘発を行う必要がなく、月経周期に左右されることもないため、2〜3日と短期間での治療ですみます。また卵巣機能が回復すれば自然妊娠も可能になります。

   そして卵子凍結と受精卵凍結は、これまでも多く行われてきている手法で成功例も数多く、安全性も確立されていることが特に大きなメリットです。一方で、卵巣刺激のため排卵誘発剤を用いるため、ホルモンレセプター陽性の乳がんの場合にはリスクがあるという指摘があるため、主治医への相談をお勧めします。

卵子凍結受精卵凍結卵巣凍結)
対象年齢13~40歳まで(排卵しているかがで判断)13~45歳まで(排卵しているかで判断)摘出が0~37歳までで思春期前の年齢でも対応できる。移植は45歳まで
治療期間2週間以上--2~3日
既婚未婚未婚者既婚者のみ既婚・未婚問わず
妊娠出産体外受精のみ体外受精のみ自然妊娠も可能

<参照>卵巣バンク

■取材・文/瀬田尚子
出版社勤務を経て、フリーランスのライター・編集者に。医療・健康分野を中心に雑誌、書籍、WEBメディアなどで取材・執筆を行う。

(日本医療・健康情報研究所)

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