「緩和ケア=終末期医療」と思っている人は多いのですが、実は、緩和ケアは「診断早期から始められる医療」。
痛みの緩和のほか、治療方針の意思決定などもサポートが可能です。
「がんと診断された時からの緩和ケアの推進」は、がん対策基本法の中で重点的に取り組む課題と考えられており、がん診療連携拠点病院を中心に緩和ケアチームが設置され、肉体的・精神的苦痛の緩和をはじめ、幅広いサポートが行われています。
「緩和ケア=終末期医療」という誤解
2002年、WHO(世界保健機関)によって、「緩和ケアとは、命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族が抱えている身体的、精神的、社会的、スピリチュアルな苦痛を早期に診断し、適切に対応・治療することでQOLを向上させる医療」と定義されました。それ以来、それまでは「終末期医療」と捉えられてきた緩和ケアは「診断早期から開始される医療」へと転換したのです。 2006年に制定されたがん対策基本法では「がんと診断されたときからの緩和ケアの推進」を重点的にとりくむ課題のひとつとしました。
しかし社会の中でいまひとつ理解されていないのが現実で、「緩和ケア=終末期医療」という考え方が未だ根深く残っているのです。
国立がん研究センター中央病院緩和医療科長の里見絵理子氏は「やっと医師やコメディカルにも新しい緩和ケアの考えが広がってきたが、地域差、世代差が大きいのが現状」と話していました。
緩和ケアとは具体的にどういうものなのでしょうか?
がんの場合、診断期にはがんの告知によるショックや不安などの心理的な負担や体調不良、治療が開始されると手術の痛み、抗がん剤などの薬物療法、放射線療法による副作用や後遺症など、その過程で様々な心身の苦痛が考えられます。
こうした苦痛の緩和を行うのは基本ですが、他にも、経済面や生活面など社会的な問題に関する相談、治療の継続や中止に関する自己決定のサポート、家族のケア、そして終末期医療と、その内容は幅広いです。
緩和ケアを正しく知り、利用しよう
―基本的緩和ケアと専門的緩和ケアの2つがあります―
基本的緩和ケアとはすべての医療従事者が提供できるもので、2008年から医師を対象とした緩和ケア研修会が全国のがん診療連携拠点病院で開催されており、2016年3月末までに約7万人の医師が修了しています。
専門的緩和ケアは、がん診療連携拠点病院を中心に設置されている緩和ケアチーム、在宅緩和ケア、ホスピス・緩和ケア病棟が提携し、それぞれで提供を受けることが可能です。
海外の報告では、進行肺がんの患者さんのうち、診断時から緩和ケアを実施した患者さんは、必要な時に緩和ケアを受診していた患者に比べて「QOL」「身体・精神症状」が改善し、生存期間が延長したという研究結果があるなど、緩和ケアの効果は認められています。
「がん患者さんやご家族も、緩和ケアを正しく知り、緩和ケアのリソースを上手に利用し、『がん患者力』を高めることで、どんな時期でも苦痛なく、その人らしく過ごせるように」と里見氏。
緩和ケアチームや緩和ケア病棟がある病院の情報は,がん対策情報センターのホームページに掲載されています。あるいはがん診療連携拠点病院にある相談支援センター、地域医療連携室に問い合わせることもできるので、積極的に利用しましょう。
■取材・文/瀬田尚子 出版社勤務を経て、フリーランスのライター・編集者に。医療・健康分野を中心に雑誌、書籍、WEBメディアなどで取材・執筆を行う。関連ニュース・トピックス
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