「乳がん」の治療を受け乳房に変形を残し悩んでいる女性は増えている。また、「漏斗(ろうと)胸」や「ポーランド症候群」で、乳房の悩みをもっている患者もいる。そうした患者のために、幹細胞を用いて乳房を再建する最新の医療技術が開発されている。
乳房を幹細胞で再建する新しい治療法「CAL」
「CAL組織増大術」(CAL)は、自分の脂肪と脂肪由来の幹細胞(脂肪幹細胞)を用いて、乳房を再建する新しい医療技術。東京大学形成外科などの研究により開発された最新の治療法だ。
乳がんの治療などで失われた乳房を再建したり、体のさまざまな部位の形を整えるために、脂肪の移植が行われているが、移植した脂肪の生着率が低いという課題がある。
脂肪幹細胞であれば、血管の増殖に関与したり、新たに脂肪細胞を作り出す働きを得られる。移植後に脂肪幹細胞が定着すれば、もともと自身の体にある細胞なので、移植した部分に新しい血管や脂肪細胞の増殖がはじまる。
CALによって、注入する脂肪の中の幹細胞の密度を高めることで、脂肪の生着率を従来の脂肪注入術よりも格段に高められる。
自身の脂肪と脂肪幹細胞を使い乳房を再建する「CAL」であれば、「人工物を用いないため拒絶反応が極めて少ない」「脂肪には流動性があり再建する乳房の形に制限がない」「自然で柔らかな乳房ができる」「新しく大きな傷を作らない」といったメリットがある。
「CAL」は、大学病院での臨床研究などを経て、セル ポートクリニック横浜で提供される「高度美容外科医療」となっている。同院では2016年3月までに900人を超える患者がCALによる治療を受けている。
漏斗胸やポーランド症候群の治療にも効果的
「漏斗(ろうと)胸」とは、胸骨や肋骨が陥凹して胸の中央が漏斗のようにへこんでいる状態をいい、ひどい場合には心臓及び肺の圧迫をきたすことがある。
胸部の変形や、右左の乳房の形が異なっている状態で悩んでいる患者は少なくない。漏斗胸は外見上の問題だでも、引け目を感じるなどの精神的な問題が多い。
また、「ポーランド症候群」とは、胸の筋肉(大胸筋)の欠損により片側の胸の発育が悪くなる、女性に多い病気。
「CAL」は、漏斗胸やポーランド症候群の治療にも効果的で、セル ポートクリニック横浜では実施例が増えているという。
乳房を失った喪失感や生活上の不便さを解決
日本人女性のがん罹患率トップは乳がんだ。その罹患率は20%超を占め、女性がもっとも注意しなくてはいけないがんになっている。女性が生涯で乳がんに罹患する確率は12人に1人とされる。
乳がんの治療は進歩しており、患者の多くは治療を乗り越えて日常の生活へと戻っていく。しかし、乳がん手術は確実に乳房に変形を残す。形を残せる患者もいるが、乳房を全てを切除され傷やしわが目立ってしまう場合もある。
最近はそうした患者にとって、乳房を失った喪失感や生活上の不便さを解決することも大切な治療となると考えれるようになっている。 乳がんの治療を受ける患者にとっても、「乳がんの手術を受けて、乳房を失っても、再び取り戻すことができる」という選択肢を得ることがが、治療へ臨む勇気につながる。
乳房再建の選択肢が増え、乳房温存から乳房再建へと乳がんの治療法は変わってきている。「乳がん治療と乳房再建の情報ファイル」では、最新の情報を含めて、乳がん治療と乳房再建について詳しく解説している。
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