手術では取り除くことができない、体に潜む小さながん細胞を死滅させるのが手術後の治療の目的です。主な方法は高エネルギーの放射線を患部に当てる「放射線療法」と、薬を使った「薬物療法」です。
薬物療法で使う薬剤は、がんの特徴によって異なります。
放射線療法と薬物療法
放射線療法と抗がん剤治療は、同時には行わない
乳がんの治療では、手術で切除した組織や細胞について病理検査を行い、その結果から全身療法(薬物療法)や局所治療(放射線療法、追加手術)などを組み合わせ、術後の治療を進めていきます。
放射線療法と抗がん剤治療がともに必要となる場合、急性の副作用の可能性を考慮し、同時に二つを行うことはしません。放射線療法と抗がん剤治療のどちらを先に行っても、再発や転移に差はないことが報告されていますが、最近は遠隔転移を減らす目的で、数ヶ月の抗がん剤治療を先に行い、その後で放射線療法を行うことが一般的になっています。
放射線療法について
温存手術の場合、放射線療法を行うことで再発のリスクが減少
手術後の放射線療法は、温存した乳房や乳房を切除したあとの胸壁、その周囲のリンパ節からの再発を防ぐために行います。レントゲン撮影などで使われるよりもはるかに高いエネルギーの放射線を照射して、がん細胞のDNAにダメージを与えて死滅させます。放射線はがん細胞も正常細胞も通過はしますが、正常細胞よりがん細胞のほうが放射線によるダメージを受けやすいことに加え、もしダメージを受けても正常細胞は回復しやすいため、効率良くがんを攻撃することができるのです。
乳房温存手術の場合は、放射線療法とセットで行われることが多く、温存した乳房全体に放射線を照射します。手術で取りきれていたとしても、一つの乳房内に多発したり、乳管やリンパを伝って広がったりする可能性があるためです。国の研究では、乳房温存手術後に放射線治療を行わなかった場合、乳房内の再発が増えることが示されています。
乳房切除術の場合でも、胸壁やリンパ節などから再発するリスクが高い場合は、薬物療法に加えて、放射線療法も行ったほうがよいということがわかっています。具体的に対象となるのは、腋窩リンパ節に4個以上転移があった場合、そしてしこりが5cm以上だった場合です。
放射線療法は1日1回、1~2分で終了するため、外来治療が一般的です。副作用については、開始後3~4週間で、放射線がかかっている部分の皮膚が日焼けのように赤くなり、かゆくなったりヒリヒリしたりすることがあります。また乳房温存手術後の照射の場合は、乳房が少し腫れて硬くなったり、痛んだりすることもあります。これらの症状は治療が終われば徐々に軽快します。
放射線療法を勧める場合
- 乳房温存療法の場合
- 乳房切除術で、腋窩リンパ節転移が4個以上あった場合
- 乳房切除術で、腋窩リンパ節転移が1~3個で病理検査で悪性度などの危険度が高い場合
- 乳房切除術で、しこりが5cm以上の場合
薬物療法について
サブタイプ分類で治療法を選択
術後に体のどこかに潜んでいるがん細胞を根絶する目的で行われるのが術後薬物療法です。切除したがんを病理検査して、がん増殖にかかわるホルモン受容体、HER2、Ki67などのバイオマーカーの組み合わせで分類します。これはサブタイプ分類といい、薬物療法を選択する基準となります。
再発予防効果があると確認されている薬物療法は、抗がん剤を使用した「化学療法」、ホルモン剤を使用した「ホルモン療法」、抗HER2薬である分子標的治療薬のトラスツズマブを使用した「抗HER2療法」の3種類があります。
ホルモン受容体であるエストロゲン受容体(ER)とプロゲステロン受容体(PR)が陽性の乳がんの場合は「ホルモン療法」が、乳がんの増殖に関わっているたんぱく質、HER2の受容体が陽性であれば「抗HER2療法」が選択できますが、ともに陰性の場合(トリプルネガティブ)は、化学療法が行われます。
サブタイプ分類 | 選択される薬物療法 |
---|---|
ルミナルA型 | 内分泌(ホルモン)療法、(化学療法) |
ルミナルB型(HER2陰性) | 内分泌(ホルモン)療法、化学療法 |
ルミナルB型(HER2陽性) | 内分泌(ホルモン)療法、分子標的治療、化学療法 |
HER2型 | 分子標的治療、化学療法 |
トリプルネガティブ | 化学療法 |
(国立がん研究センター がん情報サービスから引用)
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