遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)のいまとこれから

No2. 乳がんのタイプを見極めることがなぜ重要?〜HBOCの予防策について〜

中村 清吾 昭和大学医学部 外科学講座乳腺外科学部門教授、 昭和大学病院ブレストセンター長
(2017年03月)
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 今、乳がんの治療では、乳がんタイプを見極めることが非常に重要になっています。

なぜかというと乳がんのタイプによって、推奨される医学的管理(検診・予防策・治療法)が変わってくるからです。

「リスク低減手術」など予防の選択肢は複数ある

 遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)の対策は、現在3つあります。

1)検診(サーベイランス)

 HBOCでは、非遺伝性の乳がん患者さんよりも10〜15歳若く発症する傾向にあるために、若い年齢から自己検診と医師による診察を開始することが重要で、検診メニューも変わってきます(※詳細はNo.5にて公開予定)。

2)予防的な手術

 HBOCでは、乳がんになったあとに同側または対側に再び乳がんができたり、卵巣がんも発症したりする(またはその逆)ことが知られています。 乳がん卵巣がんを発症する前なら乳房や卵巣・卵管を予防的に切除するという「リスク低減手術」があり、海外ではスタンダードな方法になっています。予防的な切除をすることで、発症するリスクを乳がんでは90%、卵巣がんでは96%と、大幅に低減することができます。ただし、健康保険は適用されません。

 また、HBOCの方で乳がんが早期に見つかった場合、再発のリスクを考えて、一般の場合とは手術法が変わる可能性があります。2013年から人工乳房による乳房再建手術が保険適用になったことから、「乳房温存手術」ではなく、「乳房切除手術+乳房再建」の治療法を選びやすい状況が整いつつあります。

3)薬物療法

 ホルモン治療薬「タモキシフェン」は、乳がんの再発予防に用いられる薬で、HBOCの人にとってもリスクを減少する効果があるとされています。乳がんの予防を目的に5年間服用します。予防的に服用する場合は保険がききません。 そのほか、経口避妊薬を服用することで、卵巣がんのリスクを減らすことが期待できますが、長期に続けると乳がんリスクが高まるという指摘もあります。

 BRCA1とBRCA2のどちらに変異があるかによっても、効果的な薬物療法が変わってきます。例えば、BRCA1遺伝子に異常がある場合は、トリプルネガティブ乳がんが高率に発生します。近年、BRCA1遺伝子に異常があるトリプルネガティブ乳がんでは、ホルモン療法や分指標的薬が効かない一方で、カルボプラチンという薬や新薬のPARP阻害剤が有効であることがわかってきました。

HBOCの人を見逃さない! 一次拾い上げの重要性について

 前述したように「遺伝性のがんは対応が違う」ということが明らかになっているわけですから、医師は、乳がんと診断された患者さんに対してしっかりと問診を行い、HBOCの人を見逃さないことが重要です。

 これを「一次拾い上げ(遺伝性乳がんの可能性をスクリーニングすること)」と言います。

 患者さんの病歴・家族歴を聞いて、その場でわからなかったら、次のカウンセリングまでに調べてきてもらうなどの対応が求められます。

家族歴の把握はどれくらいまで必要?

 患者さん側も、20代、30代で乳がんを発症した、両側に乳がんを発症したなど、HBOCを疑うサイン(No.1参照)が当てはまる場合、家族歴を調べてみることは重要だと思います。

 診断に必要な遺伝情報ですが、同一家系のうち、第2度近親者内に乳がんであった方が複数いる場合や若年で乳がんを発症した人がいる場合、または男性で乳がんを発症した方がいる場合は、遺伝性乳がんの可能性を考えます。

第1度近親者は、父母、兄弟、子供(遺伝情報を50%共有)
第2度近親者は、祖父母、叔父、叔母、おい、めい、孫(遺伝情報を25%共有)
第3度近親者は、曾祖父母、大叔父、大叔母、いとこなど(遺伝情報を12.5%共有)

 乳がんと診断されたら、可能な限り家族歴を調べてみることを勧めます。

 遺産相続における「何親等」とは異なりますので、間違えないようにしましょう。


家族歴を調べるときの「近親度」について

家族歴を調べる上での問題点

 日本では核家族化が進んでいて、医師が病歴を尋ねても、叔父叔母の病歴まではなかなか答えられない人が増えています。また、兄弟姉妹が少ないために、遺伝性のがんだったとしても、気づくきっかけそのものが少なくなっています。その結果、診断をミスリードする可能性があったり、HBOCが見過ごされてしまったりすることにもなっています。

 詳細な家族歴がわからない場合でも、HBOCかどうか医学的に調べる方法はあります。検査を受けるかどうかや、遺伝性が分かった場合に家族に伝えるべきかどうかなどを一緒に考えてくれるのが、「遺伝カウンセリング外来」です。 がんの遺伝カウンセリングについては次章で詳しく述べます。

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