乳がんとともに生きる人を理解する

No.8 妊娠中や授乳中の乳がん

青木 美保 帝京大学医学部附属病院 帝京がんセンター 認定遺伝カウンセラー
(2017年02月)
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 乳がんだと宣告されることは、どんな女性にとってもショックなことです。とくにお腹に赤ちゃんがいる方が乳がんだと宣告されたら、どれほど大きなショックを受けるでしょう。自分の命の心配だけでなく、お腹の子どもが産めるかどうかなど、大きな不安を抱えることになるでしょう。

 日本人女性の乳がんは、30歳台後半から増加しはじめ、40歳台後半から50歳台前半がピークになります。日本人女性の出産年齢は高くなる傾向があるため、妊娠中や授乳期に乳がんが見つかり、大きな不安に直面する方は今後も増えると考えられています。

 以前は、妊娠中の乳がんは、胎盤から女性ホルモンがたくさん分泌されるため、がんが進行・再発しやすいと考えられていましたが、現在では妊娠や出産、授乳のために乳がんの進行や再発が高まることはないことが明らかになっています。

 また、母体と胎児の間には、がん細胞をブロックする働きがあるため、お母さんが乳がんでも、赤ちゃんにがん細胞が転移することはありません。

 妊娠中の乳がんの検査法

 妊娠中や授乳中も、乳がんの自己検診は定期的に行うことが望ましいのです。妊娠中や授乳中は乳腺が発達するため、乳がんの自己検診を定期的にしていても、乳房の小さなしこりを触れられず、乳がんの早期発見が難しいことがあります。

 妊娠中の方は、不要な放射線を浴びないことが望ましく、X線という放射線を用いるマンモグラフィやCTは受けないことが望ましいのです。妊娠中に乳がんが疑われたら、赤ちゃんに影響しない視触診やエコー検査などを行います。

 授乳期には、X線を照射するマンモグラフィやCTなどの検査も可能です。放射線を使う検査を受けた直後は、できれば授乳を避けるほうがいいでしょう。

 妊娠中の乳がんの治療

 妊娠前期には赤ちゃんの重要な器官が発達します。この時期にお母さんが乳がんと診断されても、治療を受けると赤ちゃんへの悪影響が大きいため、治療はできません。妊娠後期(16週以降)になれば、赤ちゃんに影響しないことが明らかになっている一部の抗がん剤や手術による治療が可能になります。

放射線療法とホルモン療法は、妊娠期間を通して行うことができません。

妊娠中の放射線療法

 妊娠中に一定レベル以上の放射線を浴びると、赤ちゃんのDNAが傷害されて、妊娠8週以内では異常や奇形、流産が起こり、妊娠8週以降では赤ちゃんの脳の発達に影響するとされています。放射線療法は、妊娠中を通して赤ちゃんに悪影響を及ぼすため、放射線療法が必要な方は出産後に行います。

妊娠中のホルモン療法

 妊娠中は女性ホルモンの分泌が活発になります。女性ホルモンの働きを抑制するホルモン療法は、妊娠中は行えません。がん細胞の増殖に女性ホルモンを必要とするタイプの乳がん(「ホルモン感受性の乳がん」)の方は、出産後にホルモン療法を受けることになります。

妊娠中の抗体療法

 がんの増殖を高めるHER2タンパクが多い「HER2陽性乳がん」の方には、ハーセプチンによる約1年間の抗体療法が勧められます。ハーセプチン自体は赤ちゃんに影響しないとする報告もありますが、比較的新しい薬剤のため、今後も研究が必要でしょう。

下記に妊娠週数ごとの乳がん治療について記載します。

妊娠4~7週末

 赤ちゃんのからだの中枢神経や心臓、目、手足などの重要な器官は、妊娠4週~妊娠7週末に形成されます。この時期に放射線を使う検査、手術中の麻酔、薬物や放射線による治療を受けると、赤ちゃんの異常や奇形、流産を起こす可能性があります。

妊娠8週〜妊娠11週末

 この時期には、手足の指や性器など細かい部分が形成されます。妊娠8週~妊娠11週末にホルモン療法を受けると、赤ちゃんに小さな奇形が起こる可能性があります(大きな奇形は起こりません)。ホルモン療法が必要な場合は、出産後に行います。

妊娠前期(15週まで)

 妊娠前期(15週まで)には、手術時の麻酔により、赤ちゃんの異常や流産が起こる可能性があるため、妊娠後期(16週以降)まで手術は行いません。

妊娠16週以降

 妊娠中期(16週以降)には、手術と抗がん剤による乳がんの治療が可能になります。

授乳期

 授乳期に薬物療法を受けると、乳汁中に薬剤が分泌されることもあるため、授乳期の薬物療法は避けるべきです。授乳により、乳がんが進行することはありません。

 ホルモン療法中は妊娠を避けましょう

 がん細胞の増殖に女性ホルモンを必要とする「ホルモン感受性の乳がん」の方は、術後少なくとも5年間以上のホルモン療法が必要になります。ホルモン療法の薬剤は、赤ちゃんに悪影響を及ぼす可能性があるため、ホルモン療法を受けている間は避妊しましょう。

 将来妊娠や出産を希望している30歳代後半~40歳代の女性は、ホルモン療法を受けているうちに、妊娠可能な年齢を超えてしまい、妊娠時期を逃すのではないかと、治療を受けるべきか悩むかもしれません。

そのような場合は、5年間のホルモン療法を一時的に中断して、妊娠・出産を終えたのちに、残りのホルモン療法を行うという選択肢もあります。その場合、5年間連続でホルモン療法を行うよりも、再発の危険性が高まる可能性があります。

その方の再発リスクによっては、ホルモン療法を連続で終えてから妊娠を検討するほうが望ましい場合もあります。妊娠を希望されている方は、ホルモン療法を始める前に、主治医と率直に相談してみましょう。

 妊娠機能が低下する薬剤もある

 乳がんの抗がん剤やホルモン療法の薬剤のなかには、卵巣機能を低下させるものがあります。このような薬剤を使うと、治療期間中と治療後しばらくは生理が止まります。治療が完了後、薬剤の影響から卵巣機能が回復して、生理が回復すれば、妊娠は可能になります。

月経が止まるリスクは、抗がん剤やホルモン療法の種類や投与量、その方の年齢、治療前の卵巣機能によって、個々に異なります。

通常年齢が高くなるほど卵巣機能は低下しやすく、40歳未満の方では、治療後しばらく経過すると卵巣機能が回復して、月経が回復することが多いのです。しかし、40歳以上の方では、治療後に月経が回復する可能性は低くなり、なかにはそのまま閉経して、不妊になることもあります。治療後に妊娠を希望している方は、治療前に主治医にご自身の希望を率直に伝えて、相談してみましょう。

 乳がん治療後の妊娠

 乳がん治療後に妊娠される方はたくさんいます。乳がんの治療後に妊娠しても、その方の生存率が低下することはありません。また、過去に抗がん剤やホルモン剤による治療を受けた方が治療後に妊娠しても、流産や早産、乳がんの再発リスクが高まることはありません。

 過去の治療の影響が、お腹の赤ちゃんにまで及ぶことはありません。抗がん剤による治療後は、抗がん剤の影響は通常2~3日のうちに体からなくなり、影響は残ることはありませんが、最初の生理が戻るまでは、妊娠を控えることが推奨されています。

 また、乳がんの再発リスクが高い方は、治療後2年間はとくに再発リスクが高く、妊娠の時期を待つべきかどうか慎重に判断する必要があります。再発のリスクと妊娠時期について主治医とよく相談してみましょう。

 治療前に受精卵、卵子や精子、卵巣組織を凍結保存する選択肢もある

 将来妊娠・出産を希望している方もいれば、現在パートナーがいなくても、将来子どもが欲しくなるときがくるかもしれません。薬物療法により卵巣機能の低下や無月経になる前に、卵子や精子、卵巣組織、受精卵を凍結保存しておき、治療が完了して、病気がよくなったときに、凍結保存しておいた卵子や精子、卵巣組織、受精卵を用いて妊娠・出産できるようにする選択肢があります。

凍結卵子・凍結精子よりも凍結受精卵のほうが妊娠の確率が高いため、パートナーが決まっている方は受精卵の凍結保存が勧められます。また、乳がん治療前の限られた時間で、効率よく対応してもらえるように、主治医から不妊治療の専門医を紹介してもらうことが大事です。

 乳がんの治療前にできるだけ将来の妊娠に対する不安材料を取り除き、少しでも安心できれば、乳がんの治療に希望をもって、より前向きに専念できるようになるでしょう。

 がん治療と妊娠を両立させる方法について、もっとよく知りたい方は、日本がん・生殖医療学会の運営する「がん治療と妊娠 ~がん治療後の将来を見据えて~」 を参照ください。がん治療を始める前に、受精卵、卵子や精子、卵巣組織を凍結保存についての動画も公開されています。

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