乳がんとともに生きる人を理解する

No.11 がんになりやすい体質が親から子どもに受け継がれる「遺伝性乳がん・卵巣がん」

青木 美保 帝京大学医学部附属病院 帝京がんセンター 認定遺伝カウンセラー
(2017年09月)
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 生まれつき乳がんや卵巣がんなどになりやすい体質の人がいます。このような体質の人は「遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(略してHBOC)」とも言われます。

 遺伝性乳がん・卵巣がんは、乳がん患者さん全体の約5~10%、卵巣がん患者さん全体の約10%と考えられています。毎年新たに約9万人の女性が乳がんと診断されていますので、そのうち約4500~9000人は遺伝性乳がん・卵巣がんの可能性があるわけです。自分は無関係と思っていても、実は遺伝性乳がんかもしれません。また、このような体質は親から子どもに世代を超えて受け継がれる可能性があります。

遺伝性の乳がんとは?

 遺伝性乳がん・卵巣がんの人は、一般の人よりもずっと乳がんや卵巣がんになる可能性が高いことがわかっています。しかし、遺伝性乳がん・卵巣がんの人ががんのリスクが高くても、全員が必ず乳がんや卵巣がんになるわけではありません。それは、がんの発症は遺伝だけですべてが決まるわけではなく、生活習慣などの環境因子が複雑に関わっているからと考えられています(まだ乳がんや卵巣がんの原因は明らかになっていません)。

どのような人は遺伝性乳がん・卵巣がんの可能性が高いですか?

   がん家系だと思いこんでいても、実は遺伝の可能性はほとんどないこともあれば、乳がんと診断された血縁者がいなくても、遺伝性が強く疑われる人もいます。

 下記に1つでも当てはまる人は遺伝性乳がんの可能性があります。このような人は、遺伝の専門家がいる医療機関で遺伝カウンセリングを受けることが勧められます。まずは、主治医に相談してみましょう。

日本乳癌学会の診療ガイドライン

・50歳以下で若年乳がんと診断された人
(浸潤性乳がんや非浸潤性乳管がんを含む)
・トリプルネガティブ乳がんの人
(ホルモン受容体であるエストロゲン受容体・プロゲステロン受容体がいずれも陰性、かつ、がんの増殖を促すHER2タンパクも陰性の人)
・2つ以上の原発乳がんと診断された人
(両側乳がん、または片側の乳房に複数の原発がん)
・年齢にかかわらず、以下に当てはまる近親者(第1~3度近親者)がいる人
  1)50歳以下で乳がんと診断された近親者が1人以上いる
  2)卵巣がんと診断された近親者が1人以上いる
  3)乳がんおよび/あるいは膵臓がんの近親者が2人以上いる
・乳がんと下記の悪性疾患(特に若年発症)に1つ以上当てはまる血縁者がいる人
:膵がん,前立腺がん,肉腫,副腎皮質がん,脳腫瘍,子宮内膜がん,白血病/リンパ腫,甲状腺がん,皮膚症状,大頭症,消化管の過誤腫,びまん性胃がん
・卵巣がん/卵管がん/原発性腹膜がんと診断された人
・男性乳がんと診断された人

遺伝性の病気や体質の疑いがあれば、遺伝カウンセリングを受けましょう

 がんの疑いがあれば、がんの専門家に相談しますよね。同じように、親から子どもに受け継がれる遺伝的にがんの疑いがあれば、遺伝の専門家に相談することが大事です。

 近年、日本でも、遺伝カウンセラーや臨床遺伝専門医などの遺伝の専門家による「遺伝カウンセリング」という新しい医療サービスが始まっています。一部の大学病院などの遺伝の専門科や乳腺外科・婦人科外来などで行われています。

 親から子どもに受け継がれる可能性を心配している、自分が遺伝性のがんである可能性を知りたい人などは、まずは主治医に相談すれば、遺伝カウンセリングに紹介してもらえるでしょう。

遺伝性乳がん・卵巣がんの遺伝カウンセリングが可能な医療機関は、次のサイトをご参照ください。
日本HBOCコンソーシアム

 遺伝カウンセラーという遺伝の専門家がいることを初めて知った人もいるでしょう。遺伝カウンセラーは、遺伝カウンセラーの養成課程がある大学院で、人や生物全般の遺伝と人の病気に関わる遺伝学、カウンセリング学、心理学、社会学など幅広く学び、臨床でトレーニングを積み、さらに学会が行う認定試験に合格して初めて得られる学会認定の資格です。遺伝性疾患はがんだけではなく、さまざまな診療科において、出生前から成人まで存在します。

 そのような遺伝性疾患の可能性がある患者さんのカウンセリングに関わり、患者さんがよりよい選択をできるように、また人生を前に進められるようにサポートをしています。

遺伝性乳がん・卵巣がんの遺伝カウンセリングとはどのような相談ができますか?

   遺伝性乳がん・卵巣がんが疑われる人が遺伝カウンセリングを受診すると、まず遺伝カウンセラーのような遺伝の専門家が、家系内のがんの既往歴を詳しく確認して、どの遺伝性疾患に該当する可能性がもっとも高いか、原因となる遺伝子の変化(遺伝子変異といいます)がある可能性を推測します。

 その遺伝性疾患の特徴、将来のがんのリスクと対策、確定診断のための遺伝子検査のメリットや遺伝子検査の限界などについて、わかりやすい説明を受けることができます。

 遺伝カウンセリングでは、親から子どもに受け継がれる遺伝性の病気や体質のほか、本人や血縁者が抱える遺伝や遺伝子に関わるさまざまな問題について相談することができます。また、遺伝カウンセラーは、当事者や血縁者にどのような不安や恐れ、ストレスがあるかということをよく理解し、そのような人のカウンセリングの経験を積んでおり、適切な心理的・社会的なサポートも受けることができます。

遺伝性乳がん・卵巣がんについてもっと知りたいときには

 遺伝性乳がん・卵巣がんに関して一般の人にもわかりやすく解説した国内初の翻訳本(下記)をご参照ください。

「遺伝性乳がん・卵巣がんと生きる」(彩流社)
スー・フリードマン 著, レベッカ・サトフェン 著, キャシー・ステリゴ 著, 田口 淳一 監訳, 青木 美保 訳, 堀尾 留里子 訳

 原著者は米国遺伝性乳がん・卵巣がんの当事者会主催のスー・フリードマンさんほかで、現在可能な医学的な予防法、治療法だけでなく、米国のみならず日本の遺伝医療をとりまく法的な問題なども含め、最新の情報について解説した一書です。
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