がんと就労~本人と職場を支える産業看護職のより良い支援とは~

No.4 上司・同僚への支援

渡井 いずみ 名古屋大学大学院 医学系研究科 看護学専攻 監修:錦戸 典子 東海大学大学院健康科学研究科
(2013年06月)
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ヒント6. 治療と仕事を両立できる職場環境や作業条件を確認し、調整します

1. 病前の業務状況の把握

 がん治療のために休業している労働者が復職を希望する場合、病前の職場へ戻すことを基本として、産業看護職は休業中から準備を進めます。具体的には、 ◆上司や本人へのヒアリングを通して、病前の業務内容、作業姿勢、作業環境、職場のメンバー構成等を把握
◆身体的負荷の高い作業(重量物の取り扱い、立位作業、厳しい作業環境、夜勤など)や単独業務(運転など)の有無について確認
◆残業時間、出張頻度、突発的な業務の有無など業務の裁量度について確認
◆職場巡視を行って実際のメンバーや作業状況を確認し、病前の仕事ぶりを聞き取る
 を行い、これらの情報を統合して復職判断に必要なアセスメントを行います。

2. 復職後の業務内容の確認

 職場における業務分担や調整の責任者は上司であるため、事前の連絡や調整は重要です。休業中(現在)の体調や治療状況について本人の同意を得た範囲で上司に伝え、また上司が復職後の業務計画をどう考えているかを確認します。復職判断には本人の病状だけでなく、復職意欲や受け入れる職場の状況、人事労務の方針など様々な要素が影響するので、上司の考えと本人の意思との一致度を確認しておくことは、とても大切です。

3. 復職後の業務内容の調整

 1、2を実施した上で、本人、産業医、産業看護職、人事労務担当者等が協議する「復職判定会議」を開催します。復職判定会議の目的は、様々な情報を関係者が共有し討議することにより、復職の可否を含めた「職場適正配置」を決定することです。最終的な見解は、産業医が公的文書(復職判定書、就業に関する意見書など)として会社に提出することになりますが、それぞれの関係者が最終決定に対して合意することが大切です。看護職は、十分な討議ができるよう必要な情報の共有と関係者間の調整を行うファシリテーターとしての役割を担います。

ヒント7. がんと診断された労働者が仕事を続けられるような、職場のサポート体制づくりと強化を行います

 産業看護職には、個々の労働者への健康支援だけでなく職場全体の健康支援や組織支援を行う役割もあります。

1.上司へのサポート

 がんの治療中の部下を受け入れることで、多くの上司は責任や不安・葛藤を抱えることになります。産業看護職は上司にとってのプライマリーな相談者・助言者となることが求められます。

 まず、がんと診断された労働者本人に対して、 (1)上司の理解を得ること、(2)上司が職場の同僚に適切な指示をしやすいように、職場の同僚にもある程度の情報開示が必要となることがあること、を良く説明します。本人のプライバシーを守りつつ上司の責任や立場も尊重する、そのためのバランス力が求められます。  具体的なサポートとして、

◆上司ががんと診断された部下と話し合う場を設け、職場の同僚に対して病状や業務制限についてどこまで開示するか、その伝達方法などについて合意形成をはかる
◆状況によっては、人事労務担当者に該当職場への人材加配を提案する
◆産業医や産業看護職が窓口となって医療機関と連携することを伝え、上司の負担軽減をはかる
 が、あげられます。上司が本人の健康面での配慮や対応に困ったときには、いつでも相談できることを伝えることが大切です。

2.同僚を含めた職場へのサポート

 復職した労働者への支援とともに、働く職場全体に対しても、きめ細やかな支援が必要です。

◆定期的に職場巡視を行って作業状況や作業姿勢を確認し、職場と本人に対して具体的な助言をする(ストーマに作業台があたらないような作業方法を工夫する、など)
◆作業条件や業務内容の見直しが必要な場合には、産業医面談を設定して就業制限等の変更を検討する(例:化学療法・放射線療法後に感染機会を減らすため出張制限をする)
◆職場に対して、職場が配慮すべきこと、に関する健康教育を実施する
◆該当職場における、緊急時のマニュアルやプロトコールを作成する
 これらを行いながら、産業看護職の存在や役割を周知し、困ったときには誰でも相談できることを伝え、本人を取り巻く職場の同僚の心理的負担を減らすようにします。

ヒント8. 互いに支え合い気遣う職場風土づくりを促します

1.本人への働きかけ

 復職する労働者には、自分は会社に不要な人間であると自己判断して退職を早期に決断しないよう話します。また、会社に無理な配慮を要望して職場における人間関係や公正性が損なわれることがないような支援を心がけます。例えば、以下のような支援が考えられます。 ◆自分に出来ること、出来ないことを上司や同僚に明確に伝える(例:週に1回は放射線治療のために出勤が遅れるが、○ケ月後には治療が終了する予定である)
◆残業や業務の見直しなど職場が配慮をしてくれている場合、きちんと感謝の意を表現するよう伝える

2.上司・職場への働きかけ

 がん治療中(治療後)の労働者と一緒に働くことは、上司や職場にとって業務負担が増えることにつながります。一方で、「大きな病気に罹っても、この会社は社員を見捨てない」という会社への信頼感や満足感が職場全体に増す、という効果もあります。 産業看護職はこのような特徴をふまえ、

◆がんを持つ部下を含めて職場をマネジメントしていることを支持する
◆上司や職場がどのように業務分担や工夫をしているかを聞き、共感し、努力を労う
◆周囲が無理をしすぎないよう、いつでも相談にのることを伝える
◆必要に応じて、社内(外)での成功事例を紹介する
 といった態度で支援をします。

3.人事労務担当者への働きかけ

 がん治療中(治療後)の労働者の復職判断、その根拠となる社内の就労規則の策定・改定について人事労務は重要な役割を担います。 産業看護職は、適時、復職後の状況や職場での受け入れ状況に関する情報の中から必要なものを選択して人事労務担当者と共有し、本人あるいは所属部署に対する具体的な配慮について助言することを期待されます。 社内での成功事例が蓄積され、人事労務担当者の経験知があがると、がんをもつ労働者の復職に対する心理的ハードルも低くなります。 根気強く成功事例を増やし、その情報を伝えていくことが、ひいては会社組織全体の「互いに支え合い気遣う職場風土づくり」の醸成につながると考えられます。

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