働く女性と乳がん
-がん治療と乳房再建のいま-

No.8 乳房温存術後の乳房再建 時期や方法の選択について

辻 直子 セルポートクリニック横浜院長、杏林大学形成外科非常勤講師
(2017年07月)
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 乳房温存術の再建方法は、基本的に自分の身体の細胞「自家組織」を用います。欠損の大きさや形などの状態が人それぞれですので、調整が可能な自家組織が適しているためです。従来では「広背筋皮弁」移植がほぼ単独の選択肢でしたが、最近は選択肢も増え、周辺の「局所皮弁」や「脂肪注入」で行われることも増えてきました。

広背筋皮弁

 乳房全摘後の乳房再建でも用いられる、汎用性の高い皮弁です。広背筋とその栄養血管を利用して、背部の脂肪を乳房へ移植してボリュームを付加します。

 背中にはあまり厚い脂肪がないため、広背筋皮弁はあまり大きいものはできないのが欠点ですが、温存術後であれば欠損もそれほど大きくないため、広背筋皮弁でも十分に補うことができます。さらに、筋の付着部や血管の剥離により、乳房のどこの部位でも届くので、乳房温存後のほとんどの欠損に対応可能である利便性の高い皮弁と言えます。

 欠点としては背中に傷ができることと、剥離範囲がやや広いためドレーンを留置して入院する期間が2週間前後と長くなってしまうことです。

局所皮弁、脂肪弁など

 温存術後の欠損が比較的小さく、乳房の外側や下側にある場合には、局所皮弁やそれに準じた脂肪弁などが用いられることもあります。

 乳房下溝部の脂肪筋膜弁、上腹部脂肪筋膜弁や穿通枝を利用した脂肪筋膜弁や背部皮弁などもあり、乳房に隣接した部位の皮下脂肪組織を欠損部に移動させて充填する方法です。

 剥離範囲も比較的少なく侵襲は低いのですが、移動の自由度が低く、ボリュームに限界がありますので、適応は限られています。

脂肪注入

 脂肪注入は近年、乳房再建で最も注目されている分野です。大腿や腹部などから細い管を使って脂肪を吸引し、それを乳房の欠損部に注入して、脂肪でボリュームを付加する方法です。

 古くは脂肪注入という手技は、注入した脂肪の生着率が50%にも満たないことが問題点でした。そのため注入して壊死した脂肪が原因で大きな嚢胞や石灰化を形成するなどのトラブルも多く、あまり有用な方法ではありませんでした。

 しかし、それから脂肪の処理方法や注入手技の改良が重ねられて脂肪注入の成績は非常に良くなり、様々な治療に応用されるようになってきました。

 他の方法との大きな違いとして、脂肪注入には「再生医療」の材料という特徴があります。

 通常の脂肪組織内に含まれている脂肪幹細胞は、脂肪や血管などの軟部組織を構築したり、サイトカインという免疫に関与するタンパク質を放出することで、創傷治癒機転への働きかけなどを行う役割をもっています。

 脂肪を移植することは脂肪幹細胞を移植することにもなり、移植先での組織の柔軟化や血管再生などが期待できるのです。これを組織の「肥沃化(ひよくか)」などということもあります。

 もっとも新しい治療として、脂肪にご自身の脂肪幹細胞を添加して注入するCAL(Cell assisted lipotransfer)という方法がありますが、この方法は単純に脂肪だけを注入するよりも脂肪幹細胞の濃度が高いため、より高い脂肪生着率や組織の質の改善が期待できます。

実際に「手術前後」の症例を見てみましょう

 私の病院で行った症例の写真もセルポートクリニック横浜ホームページに載せておりますので、ご参考にしてください。

■乳房温存述 症例
セルポートクリニック横浜 乳房再建症例

 温存術後に脂肪注入を行う場合、乳房は切開せずに細い針もしくは先端の丸い、細長い筒状の医療器具カニューレで脂肪を注入するため、傷はほとんどできません。

 脂肪の採取部も小さな傷で済みますので、日帰り手術も可能で、皮弁移植に比べると手術侵襲はかなり小さいと言えるでしょう。日数を必要としないので、働く女性にも負担がかからない方法ですね。

 さらに、脂肪幹細胞による組織の質が改善、つまり、皮膚や軟部組織が柔らかく、血行の良い状態へ変化する効果が期待できます。

 放射線照射後に生じた組織の硬化、線維化が改善することで、より良い整容性が得られるため、近年脂肪注入が広まってきたことは乳房温存術後の患者さんにとっては良い選択肢が増えたと言えるでしょう。

 もちろん脂肪注入も万能ではなく、組織欠損がとても大きい場合や拘縮の強い場合は皮弁のほうが良い適応となる場合もあります。従って「ベストな再建方法」は、患者さん1人1人で異なります。乳がん手術・治療の状況、生活スタイルなどを考慮して考えることが必要です。まずは専門家に相談してみることをおすすめします。

専門家や乳房再建の先輩たちに相談できます

 よく乳房再建は誰に相談すればいいの?と質問を受けることが多いのですが、まずは主治医に相談しましょう。

 相談先としては主治医のほかにも、各クリニックが行っている相談会やブレストケアセンターなどがあります。また、乳房再建の体験者がアドバイスをくれるおしゃべり会を実施している乳がん患者会さんも多いようです。実際に、相談してみることで具体的なビジョンが見え、気分がすっきりしたという人も多いです。

 私が院長をしておりますセルポートクリニック横浜では、月に1度、説明会も開催しております。説明会では、基本的な乳房再建から方法まで、お応えできますので是非、ご参加ください。

■乳房再建説明会
セルポートクリニック横浜 乳房再建説明会

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