働く女性と乳がん
-がん治療と乳房再建のいま-

No.6 最新の乳房再建、脂肪注入と幹細胞

辻 直子 セルポートクリニック横浜院長、杏林大学形成外科非常勤講師
(2016年07月)
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 これまで、乳房再建の方法として、一般的に行われている「皮弁法」と「乳房インプラント法」の2つをご説明してきました。

 最終回となる今回は、新しい再建方法として近年注目されている「脂肪注入」についてお話していきたいと思います。

 過去の脂肪注入

 脂肪注入は、腹部や大腿から吸引してきた脂肪を、組織増大させたい部分に注入して、脂肪で軟部組織の増大をする方法です。

 それ自体は手技も簡単なため、古くから行われてきた方法でもあります。しかし、脂肪注入には、生着率が低いという欠点がありました。つまり、多くの脂肪を注入しても、注入後に脂肪細胞が死んでしまい、吸収されるため、思ったほどの脂肪が残らない、すなわち組織増大の効果が悪かったのです。

 当時の方法では2-3割の脂肪しか残らないと言われています。しかも、大量に脂肪が壊死してしまった場合は、そこに大きな嚢胞を形成したり、石灰沈着を起こしたりといった合併症も引き起こしていました。そのため、美容目的で顔に少量注入するなどの目的以外では、あまり使われてきませんでした。

 脂肪注入の進歩

 しかし、脂肪注入も進化しています。

 まずは脂肪吸引のしかたや、脂肪注入の基本手技が確立されました。極力、脂肪細胞を傷つけないように処理をして、細かく分散して注入することで安定した生着率が得られるようになりました。

 さらに近年では、脂肪組織の中に含まれる脂肪幹細胞に注目し、脂肪幹細胞を脂肪に混ぜて、幹細胞の多い脂肪を注入することでより脂肪の生着率を高めた方法(図1)も開発されています。


(図1)CAL(Cell-Assisted Lipotransfer、幹細胞付加脂肪移植)

 このように幹細胞を利用した再生医療を応用することで、現在では7割以上の生着率を確保できるようになりました。

 脂肪注入の利点と欠点

 脂肪注入の利点は、きずが小さく低侵襲であることです。脂肪吸引のために3mm程度の切開が必要なほかは、新しいきずは増やさずに、出血もごくわずかで済みます。そのため手術は日帰りや1泊入院で行うことが可能です。

 また、生着した脂肪は柔らかく、なだらかで自然な形を再現できます。欠点としては、非常に痩せた患者には適応が難しいことと、一度に注入できる脂肪の量に限界があることです。そのため、乳房切除後に脂肪をたくさん注入しようと思っても、一度では十分な大きさの乳房の形を作るのは困難です。

 乳房再建と脂肪注入

(1)温存術後の再建

 このように進化した脂肪注入は、乳房再建にも応用されています。まず乳房温存術後の変形に対しては、陥凹した部分に脂肪を注入して膨らませるという方法で再建を行います。単純そうに見えますが、実際には乳房温存術後は切除部分に固い瘢痕ができており、癒着がある場合は注入が困難になります。

 また、多くの場合は放射線を照射した後なので、脂肪の移植床としては条件が悪く、脂肪の生着率も通常より悪くなってしまうことが多いため、乳房温存術後の脂肪注入による再建は、思ったよりも難しいというのが実情です。そこで瘢痕形成を併用したり、2回に分けて脂肪を注入するなどの工夫をして成績を上げています。

 これまで、乳房温存術後に再建を希望した場合は多くが広背筋皮弁を使った再建となっていましたから、長い入院や皮弁採取部の瘢痕など、患者の負担が大きかったのが実情です。脂肪注入であれば日帰りでの手術も可能ですし、働きながらの再建も難しくはありません。

(2)乳房切除(全摘)後の再建

 全摘後に脂肪注入を用いて再建する場合は2つのパターンに分けられます。ひとつは、乳房インプラントと組み合わせる方法です。脂肪注入のみでは一度で乳房すべてのボリュームを作ることが難しいですから、そこを乳房インプラントで補おうという考えです。エキスパンダーで皮膚を拡張してから、乳房インプラントへ入れ替えを行い、その際に胸の皮弁の皮下に脂肪注入を行います。そうすることで、乳房インプラントのみでは生じやすいインプラント周辺の段差やデコルテ・腋窩の凹みも改善されます(図2)。また表面の脂肪が厚くなるため、さわり心地も改善します。


(図2)脂肪注入と乳房インプラントと組み合わせる方法

 もうひとつは、脂肪注入を何回か繰り返して乳房を再建する方法です。一度では十分なボリュームを得られない脂肪注入ですが、一度生着した脂肪には、時間を置けば再度脂肪注入を行って積み増しをすることが可能です。エキスパンダーで皮膚を拡張してから、数ヶ月おきに脂肪注入を繰り返すことで、乳房全体を脂肪のみで再建することも可能です(図3)。ただこの方法では、脂肪の生着率が特に重要になりますから、幹細胞を加えるなどの工夫が重要になってきます。限られた施設でしか行われていない、最新の再建方法と言えます。


(図3)脂肪注入と乳房インプラントと組み合わせる方法

 脂肪注入のこれから

 脂肪注入は、非常に柔らかく、なだらかな乳房を再建できることが特徴です。自分の組織ですから血流もあり、暖かく自然な感触です。しかも大きなきずや長期の入院の必要なく可能な術式ですので、今後ももっと発展していく方法だと思います。しかし脂肪注入は充分な経験や知識なく行うと脂肪の生着は充分に得られません。

 また適応を間違うと満足のいく結果が得られないことも多いため、症例数の多い施設での治療がすすめられます。今後は、さらに生着率を向上させる方法やより良い再建方法の模索が期待される、注目の分野と言えるでしょう。

 以上で脂肪注入の説明は終わります。これまで見てきた乳房再建の方法は、それぞれの特長がありますので患者がそれぞれの希望や事情で選択して行く必要があります。

 どの方法でもきちんと修正まで視野に入れれば満足のいく再建はできると思いますが、より患者の生活スタイルに合った方法を選んでいただくためにも、周囲の医療従事者が充分な知識をもってアドバイスができるようにしておきたいですね。

 拙い文章でしたがお読みいただきありがとうございました。

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