働く女性と乳がん
-がん治療と乳房再建のいま-

No.11 乳房再建、皆さんのご質問にお答えします。
(2017年9月開催 働く女性の乳がんセミナー:会場の皆さんのご質問)

辻 直子 セルポートクリニック横浜院長、杏林大学形成外科非常勤講師
(2017年12月)
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 2017年9月26日に開催された「働く女性の乳がんセミナー」のアンケートで皆さまから乳房再建について多くのご質問をいただきました。いくつかの回答をまとめましたので、この場をお借りしてお答えします。

※セミナーでご紹介したCAL法(Cell Assisted Lipotransfer:CAL組織増大術)は脂肪注入法の1つで、注入移植する脂肪に自身の「幹細胞」を追加することで生着率が高くする最新技術です。 >>【関連】3. 再建方法の種類と特徴


働く女性の乳がんセミナー「乳がん患者さんの恋愛・婚活・結婚生活」

 納得いく形で乳房再建をすることは、見た目へのコンプレックスが解消され、自信になります。乳房再建は、人ぞれぞれ最良の方法が異なりますので、気になることがあれば、遠慮せずに医師に相談してください。

脂肪注入の場合、体への負担や痛みは?
再建後に痩せたら、胸の状態はどうなるのでしょう?

 体への負担が少ないのは脂肪注入(CAL法を含む。以下同様)です。大きな傷を作る必要もなく、自然で柔らかな乳房を再建できますので、他の再建方法(皮弁法、インプラント法)と比較すると低侵襲(身体がうける影響が少ない)な再建方法と言えます。

 痛みに関しては、脂肪注入での再建の場合は、再建する胸よりも脂肪吸引した部位に痛みが出ます。強い筋肉痛のような痛みとよく表現されます。 ただ、痛みの感じ方は人それぞれですので一概には言えませんが、手術当日に歩いて帰れる程度であることは確かです。手術後は3日程度は家で安静にできるようにしておくことをお勧めしています。

 痩せた場合ですが、注入した脂肪は生着するとご自身の脂肪として生きることになります。つまり、痩せると全身の脂肪同様に痩せます。また逆に太れば、胸に注入した脂肪も体積が増します。

再建後のメンテナンスについて知りたいです。
インプラントの場合、入れ替えは必要ですか?

 インプラントでの再建の場合は、10年で入替をすることが推奨されています。また加齢とともに、健康な方の乳房が下垂したり、サイズが変わってくると思いますので、10年経過してインプラントに問題がなかったとしても健康な方の乳房に合わせたインプラントに入れ替えると良いと思います。

 インプラントや体の状態に特に問題がない場合の、入替のみであれば局所麻酔で日帰りでも可能な手術になりますので、挿入時と比べて負担は小さいと思います。

 その他の皮弁法や脂肪注入の場合は、ご自身の体の一部の組織として生きているものになりますので特別なメンテナンスは不要です。

費用はどのぐらいかかりますか?
各再建方法について、教えて下さい。

 費用は再建方法によって異なります。

 皮弁法は30~60万円程度、インプラント法はまず皮膚を拡張するエキスパンダーを挿入する手術が10~20万円、インプラント挿入の手術が30万円程度です。脂肪注入は、当院のCAL法の場合は1回で70~90万円必要になります。複数回注入の必要な場合はその回数分の費用が必要になります。

(上記、皮弁法及びインプラント法は健康保険適用時の費用で、高額療養費制度と合わせて利用することで実質的な負担額はより軽減されます。脂肪注入法は自費診療での費用となります。)

再建方法のメリットデメリットをまとめて教えていただければ助かります。

 再建方法には大きく分けて3種類ありますので、それぞれについてご説明します。

①皮弁法
概要:血流のある皮膚・皮下組織や深部組織を移動させる移植方法
メリット:保険適用ありで、自然に下垂する柔らかい乳房の再建が可能で、完成後にメンテナンスが不要
デメリット:手術時間が5~10時間と長く、入院期間も2週間近く必要。皮弁の採取部位に傷跡が残り、皮弁壊死やヘルニアなどの合併症の可能性有。

②インプラント法
概要:シリコンインプラントを挿入する方法
メリット:保険適用あり(エキスパンダー挿入→インプラント挿入)で、手術時間が1~2時間と短時間で、新しい傷ができない。入院期間も短く日常生活への復帰が早期に可能。
デメリット:少し固く、形が決まっている為左右差が生じる場合がある。被膜拘縮の可能性があり、メンテナンスが必要。

③脂肪注入法(CAL法を含む)
概要:大腿や腹、腰などから脂肪を吸引し、胸に注入する方法。
メリット:自然に下垂する柔らかい乳房の再建が可能で、完成後のメンテナンスが不要。手術時間は3~4時間と短く、新しい傷は新しい傷は脂肪吸引部の5㎜のみ。入院期間も短く日常生活への復帰が早期に可能。
デメリット:自費診療(保険適用外)(1回の注入で70~90万円)。生着率に個人差があり、嚢胞の形成や石灰化の可能性がある。

細身の人がシリコンを入れたらどんな感じになるか教えて下さい。

 インプラントは既製品を使用する為、細身の方は健康な方の胸のサイズにあったインプラントが存在しない可能性があります。その場合は、健康な方の胸にもインプラントを挿入するなどの方法で左右のバランスを整える方法もあります。

再建した後(2年くらい)の生活や、できないことについて知りたいです。

 皮弁法もインプラント法も脂肪注入も再建後2年で再建した胸に大きな変化はないと思います。

 もっと短期間で言いますと、それぞれ侵襲性(身体が受ける影響)に差がありますので、術後の安静期間に多少の差はあります。

 皮弁法では筋肉も一緒に移植する為、ドナーとなる部位の筋力が多少低下します。インプラントの場合は被膜拘縮が起これば抜去する必要がでてきます。

 また、破損などがなくてもインプラントは10年程度で入替が推奨されています。脂肪注入は、侵襲性は低い術式ですが注入した脂肪が生着するまで(手術後3カ月程度)は激しい運動は控えて頂くようお勧めしています。

現在、圧迫感が強くて辛いです。
老後に、この辛さに耐える自信がなく絶望的な気分です。

 インプラントで再建をされたか、ティッシュエキスパンダーを入れられている方だと思いますが、皮膚が十分伸びれば圧迫感は多少緩和されると思います。

 ただ、圧迫感が"0"にはならないと思いますので、現状がとてもつらいようであれば皮弁や脂肪注入などの自家組織での再建を検討された方が良いかもしれません。

同時再建をして、乳頭乳輪を3Dパラメディカルタトゥーで再建しましたが、左右の形が気になります。
脂肪注入で形を整えられると聞いたのですが...

 皮弁やシリコンインプラントで再建された後の修正には、ご存知の通り脂肪注入が適しています。

 脂肪は流動性のあるものの為、全体的になだらかなシルエットに整えたり、部分的なボリューム不足を改善したりといった用途で追加施術を受けられる方が多くおられます。

再建したことで、気持ち的にどんな変化があるのか。
キレイに仕上がらないこともあるのでしょうか?

 まず、気持ちの変化についてです。乳がんの手術によって見た目にコンプレックスを持ってしまう方がいます。「バランスの悪さ」や「不完全さ」を感じ、温泉やジムで人に体を見られたくないと感じてしまっている方にとっては、見た目のコンプレックスが解消されて自信を持てたり、気持ちが前向きになれる可能性があると思います。

 次にキレイに仕上がらないことがあるのかについてです。まず"キレイ"の基準は人によって違います。

 そのため、形成外科医は患者様の思う"キレイ"に近づける為に、または客観的に"キレイ"に見える為に、より良い方法をご提案します。その提案に対して、患者様ご本人が再建方法を選択して実施する為、"キレイになるか"と言うよりも"どこまで自分の思うキレイに近づけるか"と言ったものになると思います。

 ここで重要になるのが、患者様の持っているイメージと医師のイメージにズレがないかです。一度の手術で絵に描いたような胸を再建することは難しいです。患者様によって状態は様々ですので、できること、難しいことも違うと思いますので医師と十分に相談することが大切です。

もし、TE(ティッシュエキスパンダー)をいれたあとから豊胸したい場合も施術可能なのでしょうか?

 基本的には可能だと思います。ティッシュエキスパンダーの目的は、その後の手術で再建する準備として皮膚を拡張することにあります。再建時に健康な方の胸を豊胸することが分かっていれば、豊胸後の胸に合わせた再建が可能ですので問題ないと思います。

 ただし、健康な方の胸への豊胸について大幅なサイズアップを希望する場合は、既に挿入しているティッシュエキスパンダーで出来る皮膚の拡張では不十分になる可能性があります。

両側全摘の場合、再建についてのお金や体への負担が知りたいです。

 両側全摘の場合の再建について、まず金銭的負担については、片側の方よりはやはり高くなります。次に肉体的負担については、自家組織で再建する場合は皮弁法であれ、脂肪注入であれ、両側乳房分の組織が必要となる為とても負担が大きくなります。その為、基本的にはインプラントを用いた再建をお勧めしています。インプラントのみの再建で、リップリングなどが気になる場合には脂肪注入を追加することで、なだらかで自然なシルエットに整えることが可能です。

 脂肪注入の場合は、サイズや残存する皮膚の厚みにもよりますが、両側乳房を再建する為には大量の脂肪が必要となり、脂肪のみでの再建は難しいとお考え頂いた方が良いかもしれません。

脂肪注入の成功率は?
失敗することはありますか?

 何を成功とみなすかにもよると思いますが、注入した脂肪の生着が"0"(効果が全くなかった)という可能性はほぼないです。

 生着率が悪い方でもある程度は生着します。そう言った意味では、手術の成功率はほぼ100%成功と言えるでしょう。逆に、注入した脂肪が100%生着することはなく、必ず少しは吸収される脂肪も存在します。

 特に、体に毒なわけではありませんが、嚢胞が形成される可能性も少なからずあります。その為、"成功"か"失敗"という認識ではなく、脂肪注入に関しては生着率と、起こりうるリスクがどのようなものがあるのかをそれぞれご理解頂くことが大切だと思います。

首都圏以外に住んでいるのですが、地方での乳房再建環境について教えてください。

 乳房再建についても地域格差は問題となっています。乳房再建の認知度は徐々に広がり、エキスパンダーを入れて再建に着手した人数は7千人に迫る勢いと言われていますが、手術の多くは大都市圏で実施されており、特に首都圏に集中していると言われています。

 お住まいの近くで再建のできる病院を探したいなどの場合は、インプラント再建の場合はオンコプラスティックサージャリー学会が実施施設の一覧を公開していますのでご参考にして頂けると良いかもしれません。その他、いくつかのサイトでも施設検索ができるようになっているようです。

 または、乳房再建は特に選択に自由のある治療です。患者様が受けたいと思う治療方法、執刀してほしいと思う医師をご自身で選んで治療を受けることができます。当院にも、沖縄の方から北海道の方までCAL法の治療を受けられた患者様がおられます。

 もちろん、遠方の場合、通院にかかる負担は増えますが、乳房再建をしている病院が近くになかったとしても乳房再建を諦めなくてはいけないということではないことだけ、知っておいて頂ければと思います。

TE(ティッシュエキスパンダー)を入れている間の下着について気になります。

 ティッシュエキスパンダー挿入中は、ご指摘の通りサイズ変化量が大きい為、スポーツブラなどサイズが明確に区切られないものをつけられている方が多いです。

広背筋皮弁法にて再建済ですが、ボリュームが足らずへこみが気になるので、脂肪注入法を考えてます。

 皮弁法での再建後にボリュームの追加や、形の修正といった目的で脂肪注入を追加するというのは、とても良い選択だと思います。脂肪注入は流動性のある組織の為、全体的なボリュームアップだけでなく、部分的な陥凹の修正にも適した施術です。

再建を辻先生のところで予定しているものです。
CAL法で再建された方の旨を実際に触ってみたいのですが...

 以前に一度だけ、当院でCAL法の乳房再建をされた患者様にご協力頂いて、再建を検討中の方に触ってみて頂ける機会を設けたこともありますが、残念ながら次回開催の予定は今のところありません。

 ただし、患者様の術後の経過として最終診察時等に触ってみて頂いた際の乳房の動きを動画記録させて頂ていますので、ご要望あれば診察時に症例写真と合わせて動画でご確認頂くことは可能ですので、ご連絡ください。

脂肪注入の効果が知りたいです。
リップリングは治らない?脂肪注入で解消できますか?

 脂肪注入をすると皮膚の脂肪層の厚みが増しますので、挿入中のインプラントの形が目立ちにくくなると思います。

 解消ができるかは、現在の状態次第となりますので、一度、医師の診察をお受けいただくことをお勧めします。

左右のバランスのとり方はどうするのが良いですか?
また、温存による不揃いを解消する方法はありますか?

 再建方法には大きく分けて3種類あります。皮弁法、シリコンインプラント法、脂肪注入法がありますが、シリコンインプラントは形の決まった既製品を使用する関係で左右差が生じやすいという特徴があります。そういった場合は、健康な方の胸に小さめのシリコンインプラントや脂肪を注入することで左右のバランスを調整することができます。

 温存手術の場合の再建方法は皮弁法か脂肪注入のみになります。インプラントは形の決まった既製品を使用する為、部分欠損には使用できないからです。

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