運動を通して、がん患者のQOL向上を支援する一般社団法人キャンサーフィットネス。ウォーキング教室や術後1年未満の人を対象とした運動教室のほか、がん患者の健康と体力づくりに関する知識を身につけるためのスクール「ヘルスケアアカデミー」、「がんサバイバーのための減量と栄養の勉強会」を、東京各所にて開催しています。
ご自身も乳がんサバイバーである代表理事の広瀬真奈美さんから、「キャンサーフィットネス」を設立するまでの道のりと、がんサポーティブケアに対する想いをうかがいました。
キャンサーフィットネス創立者の広瀬真奈美さん
乳がん術後、ままならない体に絶望感も
広瀬さんが乳がんと診断されたのは2008年のこと。左乳房切除術(全摘手術)を受け、左側のリンパ節を郭清、放射線治療も行い、退院した時には、手が思うように挙がらなくなっていたといいます。 「私は病院でリハビリテーションを受けることができませんでしたし、当時はそのことを相談する場所もありませんでした。40代、50代は家庭や子育てがあって、仕事もある。あとは親の介護や世話といったこともある。私もいろいろやらなければならないことがあるのに体がままならない。『果たしてこの体で日常の生活に戻れるのか』と絶望的な気持ちになりました」 そうした時に広瀬さんが出会ったのは運動でした。 「たまたま海外の雑誌に、アメリカの『Moving For Life』という団体が行っている『がん患者さんの運動療法』を紹介した記事を見つけて『なんて楽しそうなの』と思って、ジムでエアロビクスに参加するように。音楽に合わせて体を動かしていると楽しくて、前向きな気持ちになり、腕の可動域も改善したんです」 運動療法の効果を自ら実感した広瀬さんは、抗がん剤治療中から専門学校に通い、日本フィットネス協会のインストラクター資格を取得。その後、治療が終了した段階で渡米し、「Moving For Life」にて、がん患者のための運動療法を学び、認定インストラクター資格を取得しました。 「2011年には乳がん患者を対象とした『乳がんフィットネスの会』を始めたのですが、この活動を通して『運動プログラムをもっと日本に広める必要がある』と心に決め、キャンサーフィットネスを設立しました」つらいときは、思い切って『3秒の勇気』
次第に日本でも「がんリハビリテーション」が注目されてきましたが、まだ患者さんには行き渡っていないと広瀬さんは言います。 「ここ1〜2年、理学療法士さんをはじめとする医療者から問い合わせが増えて、見学にいらっしゃる方もいます。講演に呼んでいただく機会も増えました。良い傾向だとは感じていますが、まだまだこれからかと。私たちが今後取り組むのは、『がんリハビリテーション』の重要性を伝えていくことです。がん患者さんと医療者をつなぐプラットフォームであるべきだと考えています」 また患者さんに対しては、がんの治療による体調不良や痛みで、精神的に落ち込み、何もかもが嫌になってしまうこともあるかもしれないけれど、そういう時こそ体を動かしてほしいと話します。 「いきなり運動じゃなくてもいいんです。『えいっ』と思い切って3秒だけ外に出て、空を見上げたり太陽の光を浴びたりしてみて。少し歩くとか、深呼吸をするとかで十分。この『3秒の勇気』から、だんだんと体を動かせるようになるんです。家事や普段の生活で体を動かすのもいいですよ」 乳がんの人は治療の影響で太りやすくなることが知られていますが、広瀬さんはこの2〜3年、病院からの依頼で乳がん患者の体重コントロールの研究に協力しているそうです。 「がんになってしまったのは大変なことだけれど、これをきっかけに食生活や生活習慣を見直して、健康づくり、体力づくりをしてほしい。これからも20年、30年つきあっていく自分の体ですから」 ■参考 一般社団法人キャンサーフィットネス ■取材・文/瀬田尚子 出版社勤務を経て、フリーランスのライター・編集者に。医療・健康分野を中心に雑誌、書籍、WEBメディアなどで取材・執筆を行う。関連ニュース・トピックス
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