ホルモン薬や抗がん剤など、薬を使った治療を「薬物療法」といいますが、手術前に行われるものを「術前薬物療法」といいます。主な目的は、手術の前にがんを小さくすることです。
がんの性質や進行の具合によって、行う場合とそうでない場合があります。
術前薬物療法の利点
手術前にがんを縮小させる
多くの早期乳がん患者は、再発・転移を防ぐ目的で手術後に薬物治療を必要としますが、がんの性質や進行度合いによって、手術前に薬物治療を行うことがあります。これを「術前薬物療法」といいます。術後と同じく再発・転移を防ぐ目的に加えて、がんを縮小させることで、手術を行うことが困難な進行乳がんを手術できるようにしたり、しこりを小さくして乳房温存を可能にしたりする効果があります。「術前薬物療法」には、手術前に抗がん剤治療を行う「術前化学療法」と、ホルモン療法を行う「術前ホルモン療法」があります。
術前化学療法とは
手術困難な乳がんに対して、抗がん剤を使用
術前化学療法の対象となるのは、しこりの大きい浸潤がんや、皮膚に浸潤してそのままでは手術が困難な局所進行乳がん・炎症性乳がんの場合です。使用する薬剤は、術後の化学療法に使用するものと同じです。一般的な治療期間は3~6ヶ月。病理組織検査によりHER2たんぱくの過剰発現がみられる場合は、これらの薬剤に加えて抗HER2薬の併用を考慮します。
術前化学療法により、70~90%の乳がんが小さくなりますが、一方で大きくなる場合もまれにあります。このような場合は、別の抗がん剤に変更したり、手術を早めに行ったりすることを検討します。
術前ホルモン療法とは
閉経前乳がんは対象外
手術可能なホルモン受容体陽性乳がんに対して、しこりを小さくするために術前にホルモン治療がおこなわれることがあります。現段階では、臨床研究以外では閉経前乳がんは術前ホルモン療法の対象とはなりません。またホルモン受容体陽性細胞の割合が少ない乳がんやHER2陽性の乳がんはホルモン療法の効果が低いことが懸念されます。
閉経後の乳がんに対しては、アロマターゼ阻害薬が推奨されます。一般的な治療期間は6ヶ月です。
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